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広報分室外伝:消しゴム戦車の奇襲

リゼット少佐の実家、薄暗い娯楽室の重厚な空気は、テーブル中央に広がるミニチュア戦場の緊張感で満ちていた。 精緻に作り込まれた森、廃墟、山岳地帯のジオラマは、一触即発の戦況を静かに物語っている。 向かいに座るリゼット少佐の顔には、普段の冷静沈着な表情に、わずかな焦燥感がにじんでいた。紫 スマートグラスの奥の瞳は、盤面を高速でスキャンし、最適解を模索していた。 「……計算上、この局面での我が軍の勝率は48.3%。しかし、この攻撃を成功させれば、それが55.7%に跳ね上がる。 成功確率は、ダイスに依存する」リゼット少佐は、手のひらでひんやりとした$d20$のダイスを握りしめ、ダイストレイの上へとゆっくりと持ち上げた。 これが、彼女の完璧な戦略を勝利に導く、唯一にして最後の“カオス”の介入だった。 その時、彼女の横から、甲高い声が響いた。 「ドゥオオオオン!リゼット少佐!まさにこの局面であります!ここに**『空挺戦車!!』**を投入します!」 声の主、轟少尉が、満面の笑みを浮かべながら、手元の消しゴムを無心で削っていた指を止め、新たに作り上げたばかりの真新しい消しゴム製の戦車を、躊躇なく盤面中央の敵本陣のど真ん中に**「図々しく」**置いた。 その戦車は、削りたてでまだ削りカスが付着しているにもかかわらず、砲塔、履帯、そして増加装甲のディテールまで、やけにリアルに再現されていた。 リゼット少佐の顔から、一瞬にして血の気が引いた。 スマートグラスの奥の瞳が大きく見開かれ、握りしめていたダイスが、ダイストレイの上にカランと音を立てて転がった。 出目は「1」。 最低値だ。 「……なっ、轟少尉!その、そのユニットは、データセットに存在しない! 攻撃力は!?装甲値は!?コストは一体いくつだ!?」 彼女の普段の冷静な声が、明らかに動揺で震えていた。 長年のミニチュアゲーム経験で、これほどまでに**「計算外のデータ(カオス)」**を盤面にぶち込まれたことは、かつてなかった。 轟少尉は、ニカッと笑った。 金髪のポニーテールが揺れる。 「ドゥオオオオン!少佐!この**『対地雷原展開型高速跳躍空挺戦車』は、我が体幹美学の究極の具現化であります!攻撃力は『体幹値に比例』、装甲値は『不屈の精神』、そしてコストは『ゼロ』**であります!」 リゼット少佐の脳内で、シミュレーションがクラッシュする音が聞こえた気がした。 彼女の完璧な戦略は、たった一つの消しゴム戦車によって、根底から覆されたのだ。 「……データ……エラー……!」リゼット少佐は呆然と呟き、戦場の中央に堂々と鎮座する、その白くて小さな「美学の塊」を見つめるしかなかった。 ミニチュアゲームの歴史上、これほど非論理的な展開がかつてあっただろうか。 轟少尉は、そんなリぜット少佐の狼狽に全く気づかず、満足げに次の消しゴムを手に取り、すでに別の「対空母特攻型水中巡洋艦」の設計に着手していた。 娯楽室には、消しゴムを削る音と、リゼット少佐の「データ、エラー!」という微かな呟きだけが響いていた。

さかいきしお

コメント (27)

クマ×娘 D.W
2025年12月11日 06時46分
ucchie2772

中学生の休み時間みたいだにゃw

2025年12月10日 15時17分
たぬ仮面@妄想竹
2025年12月10日 14時47分
五月雨
2025年12月10日 14時01分
gepaltz13
2025年12月10日 13時38分
T.J.
2025年12月10日 13時23分
仮免許練習中
2025年12月10日 12時57分
CherryBlossom
2025年12月10日 12時51分

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