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雨宿り編 ~外来魚殲滅任務、発動!~

急ブレーキで浮かびかけた、少尉を後ろから抱き留めて・・・・・・ ぶく、今、少尉を抱きとめた……ッ!! そう思った時だった。 「福井候補生・・・・・・、感謝する・・・・・・。だけど、そろそろ放してもらえるかしら」 顔面に貼りついたカエルを、少尉殿は迷いのない動きで、ぶくの顔へと押し付けた。 びたん、という感触とともに。 その瞬間、ぶくの脳内で、何かが爆ぜた。 羞恥と高揚と、不可解な悦びが、嵐のように駆け巡った。 (しょっ……しょ、しょっ、少尉と……カエル越しに……ッ! 間接キス……ッ!!) 心の中のキモオタだったぶくが、歓喜の声をあげる。いや違う、ぶくの中のキモオタは死んだのだ――いや、いま再臨したッ!? 雨は弱まっていた。壊れたビニール傘は遠くに転がり、ジープは泥に埋まりかけたまま沈黙している。 少尉殿は、何事もなかったかのように運転席に腰を下ろし、じっと前を見据えていた。 ぶくは、あの一瞬の接触を胸に刻みながら――いや、頬に貼りついたカエルのぬめりを拭いもせず、声にならぬ叫びを飲み込んだ。 (し、ししし……少尉の体温が、ぶくの腕に……ッ!) 自分でもドン引きするくらいの妄想と独白が脳内で膨れ上がる。 全方位に気持ち悪い。 しかし、止められない。 ぶくは今、「ヒロインの命を救った少年漫画のモブ男」の精神状態だった。 だけど。 少尉殿はふと、ぶくを振り返ると、濡れた髪をかき上げて言った。 「……まだ終わってないぞ、候補生」 その声には、確かな覚悟と……少しの照れが混ざっていた気がしたのだ。 ぶくはそれを、都合よく解釈することにした。 と思ったが、それは間違いだった。 その少尉の言葉を天が待っていたかのように、雨は本降りになり、進行方向の農道はみるみる増水していく。 「こ、これ以上進むとタイヤがアレです! 埋まっちゃいます! あっ、いやその……!?」 「否。我々は帰隊して現状報告の要がある。だが渡河は困難……あそこに避難する」 (指差し一発……斜面の小屋を即座に見抜くその判断力……! ああ、あれが……軍人ってやつか……!) ぶくの脳裏に浮かぶのは、ミリオタ時代に読み漁った戦記漫画と、美少女キャラの台詞を被せて妄想していた過去だった。 今、現実にそれがある。美少女軍人がぶくの隣に、実在している……ッ! ジープを止めると、少尉は無言で燃料を少し抜き、廃材で火を起こす。 (え? 火ぃ……ついた……雨の中で……ッ! 濡れてる木材が……なんで…… 着火剤とか使ってないのに……? そ、そんなんアニメの中だけじゃん!? ガチでいるのかよ、こんな……!) 「食料がいるな」 少尉がぼそりとつぶやく。火に照らされたその顔が、なんかこう……プロって感じすぎて……尊い。 「この辺の水溜まりは、かつて人が管理していた溜池のなれの果てだ。ブラックバスの放流痕跡あり」 「ま、まさか……!? 釣る、んですか?」 「いや? ?駆除するのだ。これは任務である」 (ッッッ!!! かっ、かっけぇ……! 釣りじゃなくて、駆除!? 任務!? なんかもう、使命感のスケールが違うんよぉ……!) ジープの荷台から取り出した、おっきなハンマーを持ち、ぬかるみに踏み込む少尉。 髪が濡れて、制服の背中に張りついてる。 ぶく、ガン見。無意識に拝む。 手を合わせた。 ご~ん!! 岩から火花が散り、泥水が跳ね、バスが浮いた。 「命中率、百発百中。これを、ガチンコ式漁法という」 (ガチンコ……式……!? いやいやいや、それ完全にアウトでは!? 法律的にも人道的にも!!なんでそんな技名あるの!? ってどこで習ったの!? ……でもカッコいいって思っちゃうの、少尉ぃぃ……ぶくもう……無理……) 三匹確保し、火に戻る少尉。 そして、いきなり濡れた軍服を脱ぎはじめる。 目のやり場がない。 いや見るしかない。見るのが礼儀。 「しょ、しょしょ、しょっ、少尉!?!? それはその……っ!」 「軍服が濡れるのを躊躇してはならぬが、乾かせる時に乾かすのは、兵士の務めだぞ」 その下から現れたのは……ブルマだった。 「ぶひっ……!!」 (ブルマ……ぶるま……ブ……ブルマァアアア!?) (なんで!? いや、わかるけど!? でもなんで!! なんでそれ着てるの!? やっぱ少尉、ぶくの妄想から出てきた女神様でぶか!?) 衝撃。 それはまさに、戦術核。 かすかに水滴のついた太もも、ほのかに紅をさしたような膝小僧。 濡れた金髪が肩にかかり、体操着とブルマだけになったその姿は、まるで「女神が体育祭に降臨したかのよう」だった。 無意識に目をそらしつつ、耳まで真っ赤にしながらちら見してしまう。 これが男の業(カルマ)か。 ブルマといえばジャスティス、そしてレガシー。 そこに少尉がいるという現実が、脳内でパニックを起こしていた。 火を囲み、ブラックバスの串焼きがじゅうじゅうと音を立てて焼けていく。 「この身は淡白だが、雑味が多い。強火で脂を落とすべし。だが、焼きすぎるな」 「さ、少尉って……バスの焼き方まで……っ」 「敵を倒した後、調理しなければ意味がないだろう。これは外来魚殲滅任務だ」 (あああああ……調理もできる……調理も……! ジープの運転、火起こし、駆除、ブルマ、焼き加減指導…… この人、なんなの……やっぱり……女神様?) ぶくは串を握りしめながら、火の向こうの彼女から目をそらした。 女神様を直視すると、たぶん……いろんなものが崩壊するから。

さかいきしお

コメント (19)

T.J.

金髪カリスマさんのブルマ姿を至近距離で見せられたら、多くの人はキモオタくんと同じ反応になりに違いないですねw

2025年05月30日 13時24分

さかいきしお

本人素でやっているので困ったものです。あっ、私は当然ながら違う反応です

2025年05月31日 13時06分

早渚 凪

今更直視しようがしまいが、既に福井君の中で色んなものが崩壊してるので手遅れ

2025年05月29日 14時40分

さかいきしお

2025年05月31日 13時05分

Kinnoya

少尉殿は、生活力がある🫡

2025年05月29日 14時32分

さかいきしお

衣食住は全部こなせないとね

2025年05月31日 13時04分

五月雨

ぶく、いいお名前になりましたわね!

2025年05月29日 13時18分

さかいきしお

ぶくい、訂正 福井曹候補生でありまぷ

2025年05月31日 13時04分

うろんうろん -uron uron-

サバイバルが全部カンペキニャ!

2025年05月29日 12時06分

さかいきしお

恐縮です!!

2025年05月31日 13時03分

へねっと
2025年05月29日 03時32分

さかいきしお

2025年05月31日 13時02分

九一
2025年05月29日 01時31分

さかいきしお

2025年05月31日 13時02分

ガボドゲ
2025年05月29日 00時24分

さかいきしお

2025年05月31日 13時02分

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