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分室のクリスマス:嵐の後の聖夜

帝国自衛陸軍・分室。クリスマスツリーがキラキラと輝く食堂で、5人の姿があった。テーブルには苺のショートケーキ、色とりどりのアイスクリームが並べられ、温かい紅茶の香りが漂う。窓の外には、夕焼けが冬の空を染め上げていた。 一番奥の席では、リゼット少佐がスマートグラスを光らせながらも、優雅にケーキをフォークで切り分けている。 その隣では、富士見軍曹がパソコンを閉じ、眉間に皺を寄せながらもカップを傾けていた。 そして、憧れのブロント少尉の向かいに座る福井候補生は、緊張でガチガチになっている。 ブロント少尉は満面の笑みで、抹茶アイスが乗ったケーキを頬張りながら言った。 ブロント少尉:「今年は何事もなくクリスマスを迎えられてよかったですね!」 その言葉に、福井候補生は顔を紅潮させながら、大きく頷いた。 福井候補生:「そっ、そうでぷ。少尉のおっしゃる通りです!!(少尉とケーキを食べれるクリスマスなんて最高でぷ)」 福井候補生にとって、ブロント少尉はまさに戦場の女神だ。その女神と同じテーブルを囲み、同じケーキを食べるという奇跡……昨夜、女神がサンタとなってヘリから降下したという噂など、もはや些細な出来事だった。 いや、むしろ神話の一頁として記憶に刻まれている。 しかし、他の面々の心の中は、まったく異なる感情で埋め尽くされていた。 (若菜少尉の心の声): 「……『何事もなく』、ですか。少尉が昨夜、『あきつ丸』の艦載ヘリを無断借用して、サンタの衣装で低空飛行を繰り返した挙げ句、基地の防空システムを一時的に麻痺させたのは、一体何だったんでしょうね……。そのせいで富士見軍曹が徹夜で報告書をまとめてるのに……」 (リゼット少佐の心の声): 「ふん。何事もなく、だと? 貴官が昨夜、**『チョコ民党への改宗を拒んだ子供に、抹茶アイスをプレゼントしようとした』**という情報が入っているぞ。危うく国際問題になるところだった。……それに、あのヘリの燃料費は、また私の部署に回ってくるのだろうな」 (富士見軍曹の心の声): 「(何事もなく……? 早朝4時まで、『サンタの空路報告書』と『無許可飛行に関する顛末書』を同時に作成させられた私の身にもなってください。しかも、少尉がヘリから落としたプレゼントの空包が、基地の宿舎の屋根を直撃した件で、これから大佐に呼び出されているのに……)」 それぞれの想いが交錯する中、ブロント少尉は「日没までまだ時間があります!」と、追加のアイスを注文しようと張り切っている。 若菜少尉は小さくため息をつきながら、そっと富士見軍曹のカップにお茶を注いであげた。 「……メリークリスマス、ですね」 その言葉は、誰に届いたのか、届かなかったのか。しかし、分室のクリスマスは、今年もこうして過ぎていくのだった。

さかいきしお

コメント (26)

Ken@Novel_ai
2025年12月25日 21時35分
よ~みん
2025年12月25日 16時11分
へねっと
2025年12月25日 15時51分
takeshi
2025年12月25日 14時36分
T.J.
2025年12月25日 14時23分
五月雨
2025年12月25日 14時23分
white-azalea
2025年12月25日 14時06分
CherryBlossom
2025年12月25日 13時49分

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