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冬のアイピク島 ―― 記録に残らない到達方法

前日・情報部分室 「――却下」  即答だった。  書類から目を離さず、  リゼット少佐は淡々と言い切る。 「私はド〇えもんじゃない」 「……」 「昨日の今日で《セント・レッド・ジャイアント》が出せると思うな。  あれ一機で、いくらかかると思ってる」  ブロント少尉は、背筋を伸ばしたまま答える。 「ですが、アイピク島への物資輸送――」 「“物資輸送”?」  少佐のペンが止まる。 「“クリスマスプレゼント交換”の間違いだろう。  それは貴官の非公式訓練・研究会扱いだ」 「……」 「今までは、他便への便乗で目をつぶっていた。  だが今回は単独行動だ」  少尉は一瞬考え、言った。 「昨日、サンタが大量発生しましたが」 「そんな記録は残っていない」 「……」  完全に、目を逸らされた。  しばし沈黙。  リゼット少佐が、ふうっと息を吐く。 「……C-130ならな」 「?」 「補給任務で、ルート上を通るらしい」  少尉の目が、わずかに輝いた。 「AC-130ですか」 「たわけ!!」  机を叩く音。 「そんなものあるか!!  武装輸送機を何だと思ってる!!」 「失礼しました」  ブロント少尉は即座に頭を下げる。  そして、淡々と続けた。 「アイピク島に飛行場は?」 「知らん」 「では――」  少尉は、少しだけ首を傾げた。 「飛び降りますか」 「……は?」 「雪は積もっています」 「……は?」 「衝撃吸収には有効です」  リゼット少佐は、天井を仰いだ。 「……ブロント少尉」 「はい」 「私は何も聞いていない・・・・・・・,できるのか」 「努力します」 「“努力”で済む案件じゃない」 「了解です」  少尉は踵を返す。 「橇、探してきます!!」 「待て」 「はい?」 「……」  少佐は書類に判を押し、  小さく呟いた。 「死ぬなよ」 当日・C-130 機内  ランプドアが開く。  白い世界が、眼下に広がっていた。 「高度、最低限まで下げます」 「了解」  貨物室の中央には――  おんぼろジープ。  その下に、  どこからか調達された大型橇。 「……本当にやるんですか」  搭乗員が、引きつった笑顔で聞く。 「ええ」  ブロント少尉はシートベルトを締める。 「制御可能です」 「どうやって止まるんです」 「斜面と雪と――」  一拍。 「――経験です」 「……」  ランプがさらに下がる。 「投下準備!」  ジープが、滑る。  一瞬、無重力。  次の瞬間―― アイピク島・冬のビーチ  ざざざざっ!!  橇が雪を噛み、  ジープは見事に斜面を滑走した。  前輪に連動した橇が、  ハンドル操作に応じて向きを変える。 「……問題なし」  減速、停止。  エンジン停止。  ブロント少尉は降り立った。  そして―― 「……え?」 「なに、今の」 「空から……車……?」  雪原にいた仲間たちが、  凍りついたように見つめている。  少尉は、いつもの調子で言った。 「みんな」  一拍。 「一か月ぶり!!」  そして、満面の笑み。 「冬季(自主)キャンプ、はじめるよ!!」 「……」  誰かが呟いた。 「……ヘリは……?」 「却下されました」 「……」 「C-130から来ました」 「……」 「橇付きです」 「……」  少尉は、後部座席のプレゼント袋を指す。 「安心してください」 「プレゼントは無事です!!」 「今日は――」  少しだけ、声を柔らげて。 「遊びと訓練です」 この島では何の問題もない。 「寒いから、みんなちゃんと体動かしましょうね~」 問題が起こるのは、少尉が起こした時だ。  雪のビーチに、ため息が広がった。  その遠くで――  何も知らないC-130が、  静かに去っていった。  なお、この一件に関する正式記録は――  存在しない。

さかいきしお

コメント (7)

翡翠よろず
2025年12月25日 23時28分
よ~みん
2025年12月25日 23時19分
しるばん
2025年12月25日 22時40分
もみ
2025年12月25日 22時37分
Ken@Novel_ai
2025年12月25日 21時40分
ippei
2025年12月25日 21時27分
みやび

いや~なかなかムチャするのう~

2025年12月25日 21時01分

926

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