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『銀嶺のカウントダウン ―分室式・除夜の鐘祝砲作戦―』
極寒の雪原。吐き出す息は白く、静寂を切り裂くのは、ジープのアイドリング音と時限時計が刻む無機質なビープ音だけだった。 「若菜少尉、時間は?」 ブロント少尉が、紅白の巫女服を夜風になびかせて振り返る。 その顔には、子供のような無邪気さと、戦場での高揚感が混じり合った、最高の笑顔が浮かんでいた。 「……あと十秒。狂いはありません」 若菜少尉は抱え持った巨大な『時限爆弾時計』のデジタル数字を睨みながら答える。 赤い数字は非情に、かつ正確に、一年の終わりを削り取っていく。 ジープの荷台では、富士見軍曹が震える膝を必死に抑え、ブロント少尉と無反動砲を支えていた。 リゼット少佐は端末の青白い光に照らされながら、風速と噴射角の最終計算を終える。 足元では福井候補生が、凍土に這いつくばってカメラを構えていた。 「五、四、三、二……」 カウントが『一』を刻んだ瞬間、世界が止まった。 「――ハッピー・ニュー・イヤー!!」 ブロント少尉の叫びと同時に、引き金が引かれた。 次の瞬間、静寂は粉砕された。 無反動砲の砲口から、そして若菜少尉の抱える時限時計から、凄まじい圧力で「色彩」が噴出したのだ。 それは鉄弾ではない。除夜の鐘を破壊するための火薬でもない。 夜空を埋め尽くしたのは、狂気的なまでの物量の紙吹雪だった。 「うわあああ! 前が見えません、少尉!」 「福井、撮れ! 撮り逃したら給与査定に響くわよ!」 「計算より……拡散範囲が広すぎるわ……」 猛吹雪のような紙吹雪の向こう側、巨大な除夜の鐘が、祝福の渦に飲み込まれていく。 火薬の匂いと、色とりどりの紙の舞。 ブロント少尉の勝ち誇ったような笑い声が、新年の訪れを告げる除夜の鐘の音に重なった。 こうして、分室の新しい一年は、いつものように騒がしく、そして少しだけ無茶苦茶な幕開けを飾ったのである。
