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対カオス分室・新春陸軍王始動ッ!
1. 嵐の前の静けさ 「初詣……これだ! 初詣に行きましょう!!」 テレビの中、新春の神社で賑わう群衆を指さし、ブロント少尉が快活に叫ぶ。 対照的に、リゼット少佐は手元の資料から視線を動かすことすらしない。 「初詣はよいが、貴官のおんぼろジープ使用は禁止する。あのような鉄臭い軍用車で神社に乗り付けるなど、軍紀の緩みを露呈するようなものだ」 冷徹な断言。 いつもなら「そこをなんとか!」と食い下がるはずの少尉だったが、今回は違った。 「了解しました! ジープは使いません!」 ……あまりにもあっさりとした引き下がりに、リゼット少佐は嫌な予感を覚える。 この猪突猛進な部下が、こうも素直な時は必ず何かがある。 2. 執念の再起動 翌朝。 分室の裏手にある古い倉庫からは、数時間にわたって金属の打撃音とオイルの匂いが漂っていた。 「……何事だ」 リゼット少佐が若菜少尉を連れて外へ出ると、そこには積年の埃を払い落とし、鈍い漆黒の光沢を取り戻した巨大な鉄塊 ――サイドカー付きの『陸王』が鎮座していた。 「ジープがダメなら、これなら文句ありますまい! 整備は完璧、我が魂の愛馬です!」 艶やかな振袖を風に遊ばせ、誇らしげに胸を張るブロント少尉。 「若菜少尉、リゼット少佐、サイドカーへ! さあ、新春の風になりましょう!」 3. 敗北の寒風 「貴官、これはもはやジープより目立つのではないか……?」 リゼットの抗議は、陸王の咆哮にかき消された。 サイドカーにリゼットと若菜を押し込み、少尉は容赦なくクラッチを繋ぐ。 冬の冷気が、振袖の隙間から容赦なく体温を奪う。 横を通り過ぎる一般参拝客の視線が痛い。 リゼットは「死ぬ気で顔を隠せ」と若菜に命じるのが精一杯だった。 4. 仮面の英雄、ジープを猛追す 参拝を終え、一行が鳥居まで戻ってくると、そこには一台のジープが停まっていた。 「お疲れ様です、少佐。帰りは冷えますからね」 運転席で静かにハンドルを握るのは富士見軍曹だ。 彼女は少尉が陸王に夢中になっている隙に、真っ先にこの車両を確保していたのだ。 「富士見、貴官……有能だな。乗り換えるぞ」 リゼットと若菜は、吸い込まれるように暖房の効いたジープ(幌付き)へ避難する。 「あ、待ってください! 私の掘り出し物を見てくださいよ!」 少尉が夜店で買った「仮面ダイバー」のお面を斜めに被り、意気揚々と振り返った時には、すでにジープは発進していた。 ……。 「逃がしませんよぉー! ダブルハリケーン始動!!」 お面を被ったまま、仮面ダイバーばりの驚異的なライディングテクニックで、夜の街道を猛追するブロント少尉。 気が付けば、彼女の駆る陸王はジープを抜き去り、まるで「平和を守るヒーロー」のように先導を開始していた。 そのシュールな光景を見た富士見軍曹は、一瞬だけ困ったように眉を下げ、静かにアクセルを踏み込んだ。
