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新春だるま騒動記
「栞、これにしましょう!!」 縁日の賑やかな境内。ブロント少尉が興奮気味に指差したのは、並み居る縁起物を圧倒するサイズの巨大なだるまだった。 「えっ、大きいですね、アンジェラ……」 「大きい方が相応しいです!特務分室の運勢を背負うのですから!」 若菜栞少尉は、華やかな振袖の袖を抑えながら、目を丸くしてその「巨体」を見上げた。 しかし、ブロント少尉の金色の瞳は、すでにその先にある「儀式」を見据えていた。 数日後。その言葉は、特務分室の訓練場で現実のものとなった。 「これより、達磨開眼の儀式を執り行う。この儀式を行うことにより、達磨神が降りて、ただの張りぼてのだるま人形は達磨仏となる。すなわち、だるま落としなり!!」 「アンジェラ、それ本当ですか……?」 「間違いないです!一級資料、民名書房刊『落ちるな達磨!!降りろ達磨様!!』にそう書いてありました!」 「はあっ!!」 軍服に着替えたブロント少尉の鋭い回し蹴りが、重なり合った巨大ブロックを次々と弾き飛ばしていく。一段、また一段とブロックが消え、最後の一段が弾け飛んだ瞬間――。 「あだっ!?」 自由落下した巨大なだるまの頭が、ブロント少尉の頭頂部に「ボスッ」と見事に着地した。 「うぅ……栞……だるま神の降臨……物理的に重すぎます……」 涙目で巨大な頭部を支え、プルプルと震えるブロント少尉。 そこへ、墨と筆を手にした栞が、聖母のような微笑みを浮かべて歩み寄る。 「ふふ、お疲れ様です、アンジェラ。……達磨の開眼って、これでいいんですよ」 栞は、ブロント少尉の頭上でふらつく巨大な眼球に、迷いのない筆致で墨を入れた。 「えっ……書けましたか?」 「ええ。これでこのだるまさんも、あなたの頑張りを見て、ちゃんと『仏様』になりました」 栞の優しい言葉に、鼻を赤くしたブロント少尉は、だるまを支えたまま誇らしげに胸を張る。 そこへ、異様な物音を聞きつけたリゼット少佐が、端末を片手に訓練場に現れた。 「……貴官たち、そこで一体何を……?」 スマートグラス越しに絶句するリゼット。だるまを頭に乗せたまま敬礼しようとしてグラつくブロントと、それを甲斐甲斐しく支える栞。 「リゼット少佐!見てください、だるま神が降臨しました!」 「……若菜少尉。悪いことは言わないから、早急に轟少尉の愛読書を検閲リストに入れなさい」 リゼットの冷ややかな指摘も、新春の晴れやかな空の下、満足げなブロント少尉の耳には届いていないようだった。
