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【ニットキャップ】冬の帰り道
12月に入り、東北地方のここはすっかり雪景色。僕を含めて普段自転車で通学してる人たちは電車通学に切り替わっているので、帰り道はみんな最寄り駅に向かう。 「あっ、美結ちゃん。今帰り?」 「うん。羽佐美君も?」 今日は冷え込みが強いから、僕も美結ちゃんもダッフルコート&ニット帽。それでも寒いから、僕たちはぴったりと寄り添って歩く。ちょっと歩きにくいけど、少しだけ寒さがマシになるからこっちの方がいい。 「もうすぐ期末テストだね。羽佐美君、ちゃんと勉強してる?」 「うん、授業でやってるところの復習はしてるよ。美結ちゃんはいつも成績いいよね、塾とか行ってるの?」 話題は期末テストの事になった。僕は家計の事情で塾には行けていないけど、その分教科書やノートを何度も反復する。美結ちゃんの点数に勝てた事ないけど。 「わたしは塾は行ってなくて、通信教育講座をやってるよ。おせっせコーポレーションの『おせっせゼミ』中学講座」 「あー、あの時々勧誘の封筒が来るやつだね。結構高いから申し込めないかなーって思っていつも捨てちゃうんだけど・・・」 おせっせコーポレーションって言うのは、通信教育や学習教材の出版を業務とする会社。社名の由来は社長の苗字『小瀬』と、『せっせ』と勤しむってところを掛け合わせて名付けられたんだって。主力サービスの『おせっせゼミ』は通信教育の分野ではとっても有名なんだ。なんか、『前向きに努力してる』感じがある名前で僕は好感が持てると思う。高いから申し込めないけど。 「う~ん、おうちの事情じゃしょうがないよね。でも、自分に合っているか分からない参考書とか買うよりは全然いいと思うよ、おせっせ」 「そんなにいいんだ?僕もおせっせしてみたいなぁ」 「じゃあ羽佐美君、今度うちに来る?もう新品じゃないけど、それでもいいならわたしのを見せてあげるよ?」 「いいの?じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」 僕たちがそんな風に和やかに会話していると、ちょっと離れたところで聞き覚えのある叫び声が。 「バネちゃーん!はさみんとみゅーたんがおせっせするとか言ってるよぉ!」 「ファ!?ちょ、おま、バッ、公共の場でなんつー事叫んでんだ!」 そっちを見ると、獅子島さんが赤羽さんに呼びかけてた。先を行く赤羽さんが振り向いてぎょっとした感じになってる。 「いやだってだって、今度みゅーたんのおうちでするって!すごい話してるのは私じゃなくてあっちの二人だよ!」 「だー!とりあえず一回黙れ!?オイ音無、サイバ!ちょっとこっち来い!」 呼ばれた僕たちは顔を見合わせて二人に近寄って行った。獅子島さんはファー付きの赤いコートで、首元があったかそう。赤羽さんは渋いトレンチコートがカッコいい。防寒具って普段着ほどじゃないけど個性出るよね。 「なぁに、赤羽さん?」 「なぁに、じゃねえよ?お前ら、もうちょい中学生らしく健全な付き合いをだな」 「ええ?わたしと羽佐美君、期末テストのお話をしてただけだけど・・・」 「いやいやいや、みゅーたん、誤魔化そうったって無駄だよ?ちゃんと私聞いたんだから、二人でおせっせするって」 二人で勉強するの何か問題あるのかな・・・?あ、もしかして中学生の男女が私室で二人きりなのがまずいって事かな。それなら、獅子島さんと赤羽さんも呼べば解決しそう。 「二人きりがまずいならさ、赤羽さんと獅子島さんもおいでよ。ね、美結ちゃん。この二人ならおせっせ見せてもいいんじゃない?」 「おおい!?サイバ何言ってんだ!?」 「う~ん、羽佐美君だけならともかく友達みんなはちょっと恥ずかしい・・・」 「いやみゅーたんもズレてるって!普通誰かに見せるもんじゃないしアレ!」 なんだろ、こっちと向こうでテンションにすごい差がある気がする。でも、獅子島さんの言う事にも一理ある。 「まぁ確かに、自分がやった後の通信教育の教材なんて人に見せるものじゃないかも」 「わ、わたしあんまり字が上手いわけじゃないし・・・」 「・・・ああ!おせっせってアレかよ、ゼミ!」 「へ、ゼミ?」 二人の様子が変わった。赤羽さんは何か納得したような顔になり、獅子島さんはぽかんとしている。・・・何か勘違いしてたみたい。 「獅子島さん、何だと思ってたの?」 「えっ、いやあのその、そりゃ、アレですよアレ」 急に獅子島さんは挙動不審に。怪しい。 「ねぇ獅子島さん?わたしと羽佐美君が部屋で二人きりでおせっせゼミの教材を広げると何が『すごい話』なのかな?わたし納得いく説明が欲しいな・・・?」 「みゅーたん、さては分かってて言ってるでしょ!?はさみんの前でそんな事言えないって!」 「サイバにフェラチオジェスチャー自撮り送りつけた奴が何言ってんだ・・・」 ・・・あ~、なんとなく獅子島さんが『えっちな話』と勘違いしてたっぽいのは分かった。 「はぁ・・・獅子島さんって本当に頭ピンクだよね」 「ひどっ!?はさみん、人をビッチみたいに言わないで欲しいんだけど!」 ごめんだけど、エロ自撮りを見せてくる女の子はビッチ呼ばわりされても文句言えないんじゃないかな。
