1 / 2
課業後のオッドアイ騒動
課業が終わり、兵舎内に夕方の柔らかい陽が差し込む時間帯。 それでも、ブロント少尉の一日は終わらない。 廊下の角を、ゴツリとブーツ音を響かせながら現れたその少女は、黒い革ジャンに身を包み、金髪ポニーテールを風になびかせていた。 ミニスカートの下からスラッと伸びた脚、そして頭にはサングラス。 だが何より目を引いたのは、その目――右は自前の透き通るような碧眼、左は不自然なまでに赤く光るカラコン。 手には、どう見ても**軍規違反なソウドオフショットガン(モデルガン)**を構え、「構えているつもり」になっていた。 「ターゲット、確保……、任務完了……みたいな?」 気取ったポーズを決め、ノリノリでキメるブロント少尉。 だが次の瞬間―― 「――貴様ァ!! それ、何持ってる!?」 「うわっ、軍曹っ!? ちょっ、ちょっと待って、話せば分かりま――」 ズビシッ!! 怒りの鉄拳――ではなく、指で額を弾かれた衝撃でサングラスがずり落ち、少尉の顔があらわになる。 富士見軍曹は、片手に持ったDVDを突き出す。 表紙には、ボロボロになった美少女ターミねーちゃんの片目から義眼センサーが露出したシーン。 「これ見なさいよ!! ターミネーターは片目が赤くなってるだけ、つまり損傷メイク!! もともとオッドアイじゃないでしょ!? 何勝手に赤カラコン入れて“私はターミねーちゃん!”なのよ!!」 「え、えっ? ちがうの? でも、こう、印象的じゃないですか!? ターミねーちゃん=赤青の目、みたいな……」 「あとその服装! ターミねーちゃんって、タンクトップに軍パンとかでしょうが! 革ジャン&ミニスカって、どう見てもサイバーパンク女子高生じゃないのよ!!」 「えっ、えええ!?……そ、そんなぁ……」 しょんぼりと、赤いカラコンをそっと左目から外すブロント少尉。 手のひらに乗った赤レンズが、夕日を受けて寂しげに光っていた。 「そもそも、課業後とはいえ兵舎にモデルガン持ち込むな! ソウドオフショットガンとか最悪ですよ!? わかってる!? 一歩間違えたら査問ものです!!」 「で、でも本物じゃないですし……ラバー製で……あの、ちゃんと撃てませんし……えぐっ、うぐっ……」 涙目で弁解する少尉。だが、軍曹は容赦なくDVDのジャケットを再度差し出す。 「やりたいなら、もっとちゃんと調べて、設定と装備を合わせてからにしなさい。せめて世界観を守れ。あと、オッドアイ属性を軽んじるな」 「ううっ……はい……」 がっくり肩を落とし、革ジャンの前を閉め直すブロント少尉だった
