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聖光の一撃 ~さようなら、グラヴィオ卿~
漆黒の月が昇る森の神殿。 荘厳な沈黙を破ったのは、バラの香りと共に現れた一人の男だった。 「……ふつくしい」 銀髪の修道女――リリスの前に、マントを翻して立つ男。 その名は、グラヴィオ・ダンピリオ・ヴェル・ラ=ナイトシュタイン卿(自称)。 月明かりに照らされたその顔には、不気味なまでの白さと、キラリと光る八重歯。 「リリス嬢、貴女の美貌は夜の薔薇。どうかこのグラヴィオの伴侶となり、永遠の夜をともに――」 「……」 リリスは一言も返さなかった。ただ、手元にそっと力を込めた。 「我がファラリア神の神託が下ったぜ」 その声は、氷のように冷たく。 「“その男、気に入らん”と」 リリスの掌が輝きを帯びる。 淡く、神秘的な、そして恐るべき聖なる光。 「はっ、なにを……おやめなさ――」 「ホーリーライト。」 彼女の掌から、天の雷のような閃光が走った。 「あっ、あああっ!? 目がっ! 目がああああああああっ!」 顔を押さえ、もんどり打つ吸血鬼。 その肉体は、光に焼かれ、崩れていく。 高貴を装った男の最期は、砂糖菓子のように、呆気なく崩壊した。 「……闇に還れ、ナイトシュタイン卿(仮名)」 リリスは、鼻を鳴らした。 その瞳は、まるで汚物でも見るかのような軽蔑に満ちていた。 背後で呆れたように茶髪を揺らすのは、狐耳の盗賊巫女・ダキニラ。 「うへぇ……さすがリリス。言い寄るヤツには容赦ないね……。っつーか、今の顔、超こわ……」 さらにその隣では、マントとシルクハットをまとった胡散臭い男、神父にして怪盗のチャーリー・ウッドが神妙な顔でつぶやいた。 「当然の結末だよ、諸君。吸血鬼とプリーストの間に、愛など芽生えはしないさ……」 「いや、そもそも名乗りが長ぇよ。ナイトなんちゃら、言いにくいんだよなあ」 ――こうして、また一つの夜が終わりを告げた。 騒々しくも愉快な仲間たち、ホーリーレイダース。 今日もまた、夜を越えて進み続ける。
