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鋼鉄の突破と、夏の甘味
帝国士官学校の講堂――。今日の講義は、前線から一時帰還したブロント少尉による「機甲機動戦」の特別授業だ。 「――戦車の本質は、突破力にある。どれだけ防御力が高かろうが、速さがなければ包囲される。包囲されれば、鉄の箱もただの棺桶だ」 黒板には驚くほど精緻な戦車の側面図と、砲撃支援と装甲斥候の連携を示す戦略図。詰襟の軍服にミニスカート姿の金髪ポニーテールの少女――ブロント少尉は、指揮棒代わりに金属製の長大なウォーピックを手に講義台に立っていた。 「たとえば――このように」 次の瞬間、ブロント少尉はそのウォーピックを振り上げ、横に置いてあった丸々としたスイカを床ごと突き刺した。 ズガァン!! 砕けることなく、見事に中央から貫通されたスイカ。そこに鮮やかに突き立つ鋼の一撃。生徒たちが静まりかえる。 「一点突破。これが“貫く”ということです。つまり、“ピアス”です」 ……誰かが喉を鳴らした。助教の富士見軍曹(黒髪ボブで小柄なクール美女)は、眉一つ動かさず腕を組んでいたが、内心(これ秋山教官の真似だろ…)と呆れを通り越して諦めていた。 「……次、演習に移る。野外へ出ろ」 一方そのころ―― アイピク島の西側のビーチ。 「……おっかしいなあ、あのウォーピック、昨日ここに置いといたんだけど」 緑髪ポニーテール、ドワーフの少女チェルキーは、炎天下の砂浜で何かを探してきょろきょろしていた。 彼女の身長は148センチと小柄だが、その表情は真剣そのもの。思い浮かべるのは――長柄の鈍器、いや刺突武器ウォーピックの勇姿である。 (あれがあれば、スイカ割れるのに……) その背後で、銀髪ロングに熊耳、薄手の毛皮のワンピース姿の少女が――地面に並んだスイカに向かい、構えを取っていた。 「えいっ!」 手刀をきれいに揃えた貫き手が、空気を裂きスイカへと突き刺さる。 ズバッ!! 五本の指が貫通し、スイカが串刺しになってぷらぷらと揺れている。 「……ぷーにゃん!? なにその武器無しスイカ割り!!」 「熊の爪は武器じゃないクマよ。これは、礼儀作法……クマ家の夏の流儀」 「いやいやいやいや!!」 アイピク島の空は、今日も雲ひとつない快晴である。 この日、士官学校とアイピク島の砂浜では、それぞれ違う意味で「ピアス」が語られていたのだった。
