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砂上の楼閣
陽が傾きはじめたアイピク島の西の浜辺。そこに、奇妙に精密な砂のジオラマが広がっていた。手のひらサイズの砂の砦、自然地形を模した丘とくぼみ、そして、ミニチュアの兵士人形たち――なぜか、妙にリアルな三頭身のブロント少尉たちにそっくりである。 「この高台を制圧されると、補給路が断たれます。よって、主力をこっちに配置して……」 真剣な顔で指を動かすのは、金髪ポニーテールに黒詰襟軍服の少女――ブロント少尉。 「少尉、それ作戦っていうより、ただの人形遊びじゃない?」 緑髪ポニーテールの小柄な美少女、チェルキーが呆れ顔で覗き込む。耳の先がほんの少しとがっており、年齢不詳のドワーフ族だ。 「これは、戦術です。……机上演習の延長線上に過ぎません」 「でも、“クマ”が暴れてるクマよ?」 プーにゃんが静かに言う。銀髪ロングの少女で、人間そっくりだが熊耳と爪付きの手袋、軽装の毛皮のワンピースが特徴的だ。 実際、砂の中を全力で駆け回る“クマ”の形をした砂の駒が、戦線を乱しまくっていた。彼女の目はきらきらしている。 「敵の奇襲と仮定しよう」 少尉は眉一つ動かさず、砂の城の前に立てた自分そっくりの駒をさらに一歩前に出す。 「で、どうやってそのクマを止めるの?」 「格闘」 「え、兵隊みんな吹っ飛んでるけど……」 「訓練が足りないんだ」 そんなやり取りをしているうちに、潮は静かに、そして確実に満ちてきていた。遠くの波音が、次第に近づいてくる。 「――少尉、あの……」 「もうすぐ、午後の演習のクライマックスだ」 「その前に、波が――」 ザッパァァァァアアン! 突然、強い波が浜辺を襲った。三人の足元をさらい、築き上げられた精巧な砂の砦も、ミニチュアの兵士たちも、呆気なく流されていく。 びしょ濡れになりながら、ブロント少尉は静かに呟いた。 「……所詮は、砂上の楼閣だな」 妙に格好つけたそのセリフに、チェルキーは呆れたようにため息をつき、プーにゃんは満面の笑みで波の中から転がった自分型の“クマ駒”を拾い上げていた。 「また作ろうねー!」 「……次は、もっと高台に築く。要塞型で」 こうして、ブロント少尉の“真面目すぎるお遊び”は、また次回へと続くのだった。
