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タピオカ・サマーアフターストーリー
アイピク島は少し静かになっていた。 地球から持ち込まれた屋台やバーは撤収し、賑やかだった海辺も今は潮騒と鳥の声だけ。 「……あのぷちぷち甘い飲み物、もう飲めないクマ?」 プーにゃんが耳をぴょこぴょこさせながらつぶやく。 チェルキーは肩をすくめ、にっこり笑う。 「心配しないで。キャサバもサトウキビもあるんだし、私たちで作ればいいんだよ」 「えっ、作れるクマ?」 「もちろん。キャサバの根っこから粉を取ってあるからね。ほら、見てて」 浜辺近くのキャンプ跡。木製のテーブルの上には、木鉢と粉袋が広げられている。 チェルキーが粉を木鉢に入れ、水を少しずつ加える。 指先で丸めると、小さな白い団子が次々と並んでいった。 プーにゃんも真似して、ころころ……ころころ……。 「わー! 粒ができていくクマ! あ、ぷーにゃんのは大きすぎたクマ?」 「うん、それだと団子汁だね」 「クマ!?」 二人は笑い合いながら、鍋で団子をぐつぐつ煮る。 透明になった粒をすくい上げて冷やし、ココナツミルクと紅茶を注いで仕上げると―― 異世界のドワーフ細工のグラスに、きらきら光るタピオカドリンクが完成した。 「やったクマ! いただきますクマ!」 プーにゃんは太いストローで勢いよく吸い込み、目を輝かせた。 「もちもちしてあまいクマ~! 最高クマ!」 チェルキーも一口含んで、ほっと笑う。 「ん~、やっぱり作りたては格別だね」 ――と、そこで影が差した。 「……おや、そのドリンク、もしやタピオカですか?」 振り返ると、黒い詰襟軍服に金髪ポニーテールの少女――ブロント少尉が立っていた。 「しょ、少尉!? この前、レイちゃんと一緒に帰ったんじゃなかったの~?」 「任務で残留者の確認に戻ってきました。……それと、ちょうどタピオカが飲みたいと思っていたところです」 真顔でさらりと告げる少尉。 プーにゃんも首をかしげながら言う。 「お姫さま抱っこで空に昇っていったの、あれすっごく感動的だったクマ。もしかして無駄だったクマ?」 「……ああ、あれですか。演出としては荘厳でしたが、正直ヘリは普通に着陸できましたので」 少尉はさらりと答えた。 「じゃあ、なんで吊り上げ……」 「深い意味はありません。私の直感です」 きっぱりと胸を張る少尉。 チェルキーとプーにゃんは思わず顔を見合わせ、同時に吹き出した。 「「やっぱり……あのヘリコプター救出、無意味だったじゃん!」」 ――夕暮れのキャンプ地に、笑い声と氷の音が軽やかに響いた。 その頃、地球のとある学生寮。 机に向かって課題に仕上げていたレイちゃんが、ふいに大きなくしゃみをした。 「へっくしっ……! な、なに? 誰か噂してるのですわ?」 窓の外では、遠い夏の残り香のように風鈴が鳴っていた。
