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カオス駆動型補給作戦 ~論理は甘味に屈する~
士官宿舎 分室・昼下がり ブロント少尉が持ち込んだ、週刊誌の**「有名パティスリー特集」**ページを、若菜少尉とリゼット少佐が覗き込んでいた。 ブロント少尉は後ろのソファーでまどろんでいる。 「少佐、見てください、この**『プリンアラモードサンデー』!とっても美味しそう。このお店ってちょっと遠いけど、おいしいらしいですよ。日曜日に一緒に行きませんか**。」 若菜少尉の提案は、純粋な情緒に基づいていた。 リゼット少佐は週刊誌を見つめ、冷静に返す。 「休日に脳の栄養補給を止めるつもりはありませんが。目的地までの距離は約80km、往復で4時間と判定。自動車で二時間かけて糖分を摂取することは非論理的です。」 少佐の論理的な拒否に、若菜少尉は肩を落とす。 「そうですか。残念ですね。テイクアウトもできるけど、さすがに2時間じゃ溶けちゃうし。」 (ピキーン!!) その言葉を聞いた瞬間、寝ぼけながら聞いていたブロント少尉の瞳に、非論理的な閃きが宿る。 士官宿舎 分室・日曜日夕刻 時刻17:35。リゼット少佐のスマートグラスが、チカチカと点滅していた。 リゼット少佐(内部演算ログ): 「本日分の高効率糖分補給が必要と判定。グルコースレベルは危険域に降下。直ちに売店でのプリン確保を試行。」 しかし、酒保の店員は首を横に振る。 「売り切れですよ。」 リゼット少佐(内部演算ログ): 「論理的補給ラインの破綻。プリン品薄論理が発動。任務遂行は極めて困難。……脳細胞スリープモードに移行します。」 少佐が絶望的な糖分不足により演算停止状態に陥るまさにその寸前、けたたましい足音と共に、二人の少尉が戻ってきた。 ブロント少尉の肩には、カジキでも入りそうな巨大なクーラーボックスが担がれている。 ブロント少尉:「たっだいまー!!」 若菜少尉:「サンデー、とってもおいしかったですよ。」 若菜少尉の情緒的な追撃が、少佐の心に突き刺さる。 ブロント少尉:「お土産で~す!! 名物のサンデーですよ!! 保冷剤たくさん入れたからまだ溶けてませんよ!!」 少尉はクーラーボックスから、完全に原型を保ったプリンアラモードサンデーを取り出した。 非論理的な心意気が、物理的な限界をねじ伏せたカオスの勝利であった。 リゼット少佐は、その非論理的な成功を凝視する。 リゼット少佐(静かに、しかし明確に): 「本当に……、非論理的です。」 彼女の理性が、少尉の行動原理を否定する。しかし、彼女の脳細胞の論理的な要求が、その否定を打ち消した。 「ただ……、物資補給には感謝します。」 少佐は、最小限の感情で敗北を承認した。そして、一瞬だけスマートグラスの光が弱まり、サンデーの論理的な燃料を効率よく摂取するために、スプーンを静かに手にした。 「うおおおっ!! 少佐が食べたー! 心意気が通じたであります!!」 少尉の勝利の雄叫びが、分室の夕闇に響いた。
