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王都初売り・チェルキーの福袋
王都の冬は、思ったよりも騒がしい。 初売りの立つ通りには人の声が溢れ、香辛料と焼き菓子の匂いが入り混じって、冷たい空気さえどこか柔らいでいた。 「はいはい、福袋ですよー。旅に出る人も、戻ってきた人も、どっちにも役に立つやつです」 声の主は、小柄な少女――いや、見た目こそ少女だが、纏う雰囲気はしっかりとした大人のそれだった。 緑髪を高く束ね、白と緑を基調にした巫女服。料理人の服を神殿仕様に仕立て直したような装いに、美食の女神の聖印が控えめに光っている。 彼女の前に並ぶのは、麻袋でできた福袋。片手で持てる大きさだが、持ち上げた客が思わず「おっ」と声を漏らす程度には重い。 「中身? 難しいものは入ってませんよ」 チェルキーはそう言って、袋の口を少し開いた。 紙に包まれた乾パン、布袋に入ったナッツと豆菓子、味付け干し肉。 新聞紙にくるまれた小鍋と、簡易ストーブ。小瓶に分けられた調味料も、がちゃがちゃ音を立てて顔を覗かせる。 「火と水があれば、あとはこれでどうにかなります。あ、甘いものも少し入ってますから」 そう言って、屋台の脇で実演を始める。 鍋に湯を張り、袋から取り出した主菜を温めるだけ。特別な魔法も技巧もない。 それでも立ち上る湯気と香りに、通りすがりの冒険者たちが足を止めた。 「旅先で、ちゃんと食べるのって大事ですから」 真剣な横顔でそう言ったあと、こちらに気づいてにこりと笑う。 大きな瞳が細まり、その笑顔だけで場の空気が和らいだ。 やがて売り子の時間がひと段落し、彼女は麻袋を片手に立ち上がる。 腰には大ぶりな牛刀。冒険者の装備も、料理人の道具も、すべてが自然に馴染んでいる。 それは福袋という形を借りた、彼女なりの祈りだった。 無事に食べ、無事に帰れ、と。 王都の初売り。 今日もまた、誰かの旅支度が、ここから始まっていく。
