thumbnailthumbnail-0thumbnail-1thumbnail-2thumbnail-3

1 / 4

王都初売り・チェルキーの福袋

王都の冬は、思ったよりも騒がしい。  初売りの立つ通りには人の声が溢れ、香辛料と焼き菓子の匂いが入り混じって、冷たい空気さえどこか柔らいでいた。 「はいはい、福袋ですよー。旅に出る人も、戻ってきた人も、どっちにも役に立つやつです」  声の主は、小柄な少女――いや、見た目こそ少女だが、纏う雰囲気はしっかりとした大人のそれだった。  緑髪を高く束ね、白と緑を基調にした巫女服。料理人の服を神殿仕様に仕立て直したような装いに、美食の女神の聖印が控えめに光っている。  彼女の前に並ぶのは、麻袋でできた福袋。片手で持てる大きさだが、持ち上げた客が思わず「おっ」と声を漏らす程度には重い。 「中身? 難しいものは入ってませんよ」  チェルキーはそう言って、袋の口を少し開いた。  紙に包まれた乾パン、布袋に入ったナッツと豆菓子、味付け干し肉。  新聞紙にくるまれた小鍋と、簡易ストーブ。小瓶に分けられた調味料も、がちゃがちゃ音を立てて顔を覗かせる。 「火と水があれば、あとはこれでどうにかなります。あ、甘いものも少し入ってますから」  そう言って、屋台の脇で実演を始める。  鍋に湯を張り、袋から取り出した主菜を温めるだけ。特別な魔法も技巧もない。  それでも立ち上る湯気と香りに、通りすがりの冒険者たちが足を止めた。 「旅先で、ちゃんと食べるのって大事ですから」  真剣な横顔でそう言ったあと、こちらに気づいてにこりと笑う。  大きな瞳が細まり、その笑顔だけで場の空気が和らいだ。  やがて売り子の時間がひと段落し、彼女は麻袋を片手に立ち上がる。  腰には大ぶりな牛刀。冒険者の装備も、料理人の道具も、すべてが自然に馴染んでいる。  それは福袋という形を借りた、彼女なりの祈りだった。  無事に食べ、無事に帰れ、と。  王都の初売り。  今日もまた、誰かの旅支度が、ここから始まっていく。

さかいきしお

コメント (29)

thi
2026年01月06日 14時33分
gepaltz13
2026年01月06日 06時46分
ucchie2772
2026年01月06日 00時41分
Ken@Novel_ai
2026年01月05日 22時22分
CherryBlossom
2026年01月05日 17時33分
早渚 凪

旅支度の場合、運要素というか中身がハッキリとリスト化されてないと怖いですね・・・アレルギー持ちの冒険者の場合は特に。

2026年01月05日 15時15分

さかいきしお

もちろん、中身は見てから買っていいんだよ? 中身は全部同じだけど、デリシア様の祝福がしっかり込められてるよ!! 試食で作ってみたから少し食べてみる?

2026年01月05日 17時03分

white-azalea
2026年01月05日 15時11分

さかいきしお

2026年01月05日 17時01分

よ~みん
2026年01月05日 13時58分

さかいきしお

2026年01月05日 17時01分

927

フォロワー

おすすめ