スノーイーグル ― 寒冷地専用・実物大模擬拳銃
雪原に設営されたテント式指揮所の中。 簡素な折り畳みテーブルの上に、それは鎮座していた。 明らかに大きい。 拳銃というには、あまりにも。 「――こちらをご覧ください!」 ブロント少尉は、胸を張って机上のそれを指さした。 「寒冷地専用・マグナム弾対応拳銃、 スノーイーグルです!!」 「しょっ、少尉……」 若菜少尉は一歩引き、視線を泳がせる。 「なんですか、その…… グリップの……邪悪な雪だるまは……」 グリップに描かれた雪だるまは、 寒冷地とは思えないほどふてぶてしく、 どこかいやらしい笑みを浮かべていた。 「むっ!! 失礼な!!」 ブロント少尉は即座に反論する。 「これは士気向上用意匠です!! 寒冷地では心理的余裕が重要なのです!!」 「……その顔で余裕が生まれるとは思えませんが……」 少尉は気にせず続けた。 「ご安心ください!! これは実物大スケールの模擬銃です!!」 「模擬銃……?」 「はい!! 銃身は完全に塞がれており、発射機能はありません!! あくまで概念実証用!! サイズ感と思想を共有するための模型です!!」 若菜少尉は、ほっとしたように息を吐く。 「……それなら……」 その瞬間。 「ブロント少尉!!」 低く、よく通る声がテント内に響いた。 「モデルガン持ち込んだら張った押す!! って言ったでしょ!!」 ポカッ!! 「いだっ!?」 ブロント少尉の額に、容赦ない一撃が落ちる。 「ふ、富士見軍曹!? ですからこれはモデルガンではなく、 寒冷地運用思想を――」 「長い!!」 ポカッ!! 「ぐぇっ!!」 富士見軍曹は机上のスノーイーグルを見下ろした。 「……で、少尉」 「は、はい……」 「これ、撃てますか」 「撃てません!! 銃身は完全閉塞!! 内部はダミー!! 安全です!!」 「見た目は?」 「……本物です!!」 「重さは?」 「……実銃相当です!!」 「ほら」 軍曹はため息をついた。 「それはもう“本物扱い”なんです」 若菜少尉は、小声で呟く。 「でも…… 確かに一目で“普通の拳銃じゃない”のは分かります……」 「でしょう!!」 ブロント少尉は反射的に胸を張る。 「この厚いスライド!! 異様に長いグリップ!! ガバメントの伝統!! グロックの合理性!! そしてマグナムの威圧感!!」 「全部盛りにしたら、 こうなりました!!」 富士見軍曹は、グリップの雪だるまを見つめた。 「……で、この雪だるまは?」 「士気向上用です!!」 「……」 ポカッ!! 「いだぁ!!」 「士気は下がってます!! 私の!! 全体的に!!」 テーブルの上で、 撃てないはずの巨大な拳銃と、 邪悪な笑みの雪だるまは、 静かに前線の空気を圧迫していた。
