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シャーリーのくノ一ごっこ講座:偽装解除の代償
真夜中の賢者の学院・野外訓練場。分厚い雲のせいで月明かりはほとんどなく、遠くの校舎の明かりが、訓練場を陰鬱に照らすだけだった。冬の夜の冷たい空気が、生徒たちの呼吸を白く染める。 「うう、なんでこんな時間に実習なんだ。しかも、くノ一ごっこって……」 ザックは、ぶっきらぼうにそう呟いた。彼もまた、学園の制服の上に分厚いコートを羽織っているが、周囲の生徒たちと同じく、この怪しげな実習に心底うんざりしていた。 その時、訓練場に隣接する石造りの高い屋根の上に、赤い残像が閃いた。 シャーリー・クラウン助教だ。 彼女は、夜目には派手すぎる青と黒の忍者服の上に金縁の赤マントを翻し、頭には**巨大で華美な笄(こうがい)**を飾りつけている。 「は~い、皆の衆! 本日は**『偽装解除の代償』でござる! 実習として、拙尼が捕まったくノ一**を演じるでござるよ!」 シャーリーは、観客に向かう女優のように両手を広げ、大袈裟な演技を始めた。 「おわっと、くノ一が捕まってしまいました! 哀れな姿でござる!武装解除されます!」 芝居がかった声と共に、彼女は背中の刀を、わざと大きな音を立てて訓練場の石畳に放り捨てる。 次に、赤マントを外し、風に乗せて生徒たちの頭上に投げつけた。生徒たちがマントに気を取られる中、シャーリーは頭の巨大な笄を外し、 「ふひひ、これ見よがしの偽装の飾りも外すでござる!」と言いながら、地面に置いた。 「ふひひ、これでくノ一めは、完全な無防備ですな! 丸裸同然でござる! どんな目に合わされるのやら♡」 シャーリーの**無防備な姿(に見える状態)**に、生徒たちの警戒心は完全に緩んだ。 ザックは思わず口を開いた。「……まさか、これで終わりじゃないだろうな?」 その瞬間だった。 シャーリーは、満面の笑みを一瞬で消し去った。 「……油断しましたね、皆の衆!」 言った瞬間、彼女は、黒髪の間にもう一本隠していた、地味で小振りな鉄製の簪(かんざし)を抜き、雷のような速さで、訓練場の地面に置かれていたかぼちゃの標的に向かって投擲した。 簪自体は装飾のない地味なものだったが、その軌跡には金色の光の輪が纏わりつき、幸運神の加護を帯びた派手な魔法エフェクトが炸裂した。 ドォン!! 鈍い破裂音と共に、かぼちゃは木っ端みじんになり、**「かぼちゃの破片」と「冷たい泥」**が暗闇の中を飛び散った。 「うわっ!」 派手に飛び散った破片は、狙ったかのようにザックの顔面に直撃した。 シャーリーは屋根の上でニヤリと笑い、結びの言葉を述べる。 「皆の衆が見た**『巨大な偽装品(マント、大簪)』は、『油断』を生むためのトリでござる! 真の『隠し武器』は、『装飾品』とすら認識されない『無害な地味さ』**の中に潜んでいる!」 ザックは顔の破片を拭いながら、暗闇の中で叫んだ。 「なんで俺だけ直撃なんだよ! クソッ! これで単位落としたらどうしてくれるんだ!」 これが、シャーリー・クラウンの最も胡散臭く、最も実践的なスカウト実習。 そして、不運なモブ生徒ザックが体験した、真夜中の代償であった。
