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閃光のミラージュ 番外編 (紫苑の15分一本勝負)
赤い暖簾の揺れる、どこか年季の入ったラーメン屋。 店内の空気は、いつも以上に張りつめていた。 カウンター席に腰掛ける紫苑の前に置かれたのは、 もはや丼というより“山”と呼ぶべき一杯。 湯気とともに立ち上る香りが、戦いの号令を待っている。 その背後から、静かに現れたのが――劉妃。 「お待たせしました。 制限時間は……15分」 そう言って彼女が差し出したのは、 赤く数字が光る大きなタイマー。 『15:00』 その表示が、紫苑の視界に入った瞬間―― 勝負は始まった。 箸を握り、迷いなく麺を持ち上げる。 音も立てず、しかし一心不乱にすする紫苑。 スープが跳ね、湯気に紛れて時間だけが無情に削られていく。 劉妃はカウンター越しに、その様子を静かに見守っていた。 感情を表に出さぬ彼女の視線だけが、刻々と減るタイマーと紫苑を同時に追っている。 ――残り数分。 額に汗を浮かべながらも、紫苑は箸を止めない。 最後の一口、最後のスープ。 そして。 カウンターに残されたのは、見事に空になった丼。 「……完食」 劉妃が小さくそう告げた瞬間、タイマーはまだゼロを告げていなかった。 紫苑は大きく息を吐き、満足そうに笑う。 「はぁ……なんとか、勝った……」 その様子を見て、劉妃はほんのわずかに微笑む。 勝負は紙一重。 けれど確かに―― この一戦、紫苑の勝利。 ラーメン屋のカウンターに、 静かな達成感だけが残っていた。
