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”空”極のラーメン ーー高度1万フィート、実食30秒ーー

セントレッドジャイアントの後部ランプが、ゆっくりと開いた。 唸るローター音が機内を震わせ、冷たい風が一気に流れ込む。 高度、充分。 降下準備、完了。 「……壮観ですわね」 あずき色のジャージに身を包んだ少女が、腕を組んで外を見下ろした。 金髪の縦ロールは、すでに風圧を受けることを見越して、いつもよりきつめに巻かれている。 レイ=篠宮=エーデルシュタイン。 悪役令嬢にして、張り合いの化身。 その隣で、金髪ポニーテールを揺らしながら、ブロント少尉は妙に晴れやかな顔をしていた。 黒い軍服にミニのプリーツスカート。 片手にはカップラーメン、もう片方にはフォーク。 「ねえレイちゃん、やっぱり落ちたほうが早いよね?」 「当然ですわ。至高が“積み重ね”なら、究極は“到達速度”ですもの」 視線が合う。 互いに一瞬だけ、にやりと笑った。 ――この人、やる気だ。 ――この方、本気ですわね。 確認はそれだけで十分だった。 「お湯、持ちました?」 「ばっちり!」 「粉末スープ一体型?」 「ちきどん、一択!」 次の瞬間。 「行きますわよ、少尉!」 「了解っ!」 二人は同時に、空へ飛び出した。 風が、世界を引き裂く。 身体が一気に持っていかれ、視界が反転する。 だが、二人は慌てない。 レイちゃんは落下姿勢を即座に安定させ、ジャージの袖をまくる。 ブロント少尉はカップを胸元に抱え込み、フォークを噛まないように歯を食いしばった。 「今ですよ!」 「お湯行きますわ!」 携行ボトルから注がれた熱湯が、猛烈な風の中で軌道を歪めながらも、奇跡的にカップへ吸い込まれる。 息が合いすぎていた。 「……」 「……」 互いに、何も言わない。 言わなくても分かる。 これは勝負じゃない。 やると決めた無茶を、最後までやりきる時間だ。 「三十秒経過!」 「食べますわよ!」 ブロント少尉が、豪快に麺をすくい上げる。 レイちゃんも続く。 フォーク、落下、風、重力――すべて無視。 「……ふふ」 「どう?」 「味は……正直ですわね」 「うん、でも――」 二人同時に、空を見上げた。 「――楽しい!」 「――負ける気がしませんわ!」 その瞬間、パラシュートが開く。 衝撃。 減速。 地面が迫る。 着地と同時に、二人は座り込み、空になったカップを見下ろした。 「……完食ですわね」 「うん、ちゃんと食べた!」 土埃の中で、視線が交わる。 「今回は……」 「うん?」 「共同戦線、ということで」 レイちゃんが、ふっと誇らしげに笑う。 ブロント少尉は、にへっと笑い返した。 「次は、また張り合おうね!」 「当然ですわ!!」 空の向こう。 神話級の鍋を囲む誰かたちが、なぜか嫌な予感を覚えたのは―― また、別の話。

さかいきしお

コメント (6)

もみ
2026年01月19日 21時09分
しるばん
2026年01月19日 20時32分
もぐっちー(mogucii)
2026年01月19日 20時19分
なおたそ
2026年01月19日 20時11分
えどちん
2026年01月19日 20時02分
みやび

唐突に明かされる令嬢殿のフルネームに衝撃なのじゃ!

2026年01月19日 18時24分

927

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