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たい焼き調査記録(深夜)
深夜の士官舎。 ブロント少尉は、机に向かい腕を組んで唸っていた。 「……むっ。たい焼きは食べ物という、私の認識は誤っていたのか?」 ノートPCの画面には、タイランド・サンカローク焼の解説ページ。 魚文様、渦巻く植物文様、古代的な釉薬のひび。 「魚の意匠……祭祀具……この配置……」 少尉の脳裏に、ぬらりとした半魚人たちが陶磁器を囲み、 意味不明な儀式を行う幻影が浮かぶ。 「なるほど。たい焼きとは、深き者どもの信仰体系と――」 その瞬間、コンコン、と扉を叩く音。 「失礼します。ブロント少尉、まだ起きて――」 顔を出したのは、若菜少尉だった。 「……調べ物、ですか?」 「はっ!重要案件です。たい焼きの正体について――」 言いながら、ブロント少尉は机の端に置かれていた紙袋をちらりと見る。 中には、ほかほかのたい焼き。 数秒の沈黙。 「……あら?」 若菜少尉が微笑む。 「深き者はともかく、冷める前に食べた方が良いのでは?」 「……合理的判断です」 ブロント少尉は素直にたい焼きを取り出した。 二人並んで腰掛け、半分に割る。 「……甘味。餡。危険性なし」 「美味しいですね」 「はい。たい焼きは――」 少尉は一口かじり、結論づけた。 「やはり食べ物の方が、士気向上に有用です」 二人は静かに、夜更けのたい焼きを味わった。 ――深き者どもの儀式は、そっと心の奥に封印された。
