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神の眷属?

「あら、お兄様、どうしたのですか。そのワンちゃんは」 屈強なオークの戦士が、白い小さな子犬を抱いている姿はなかなかに、落差が激しくてほほえましいものだった。 「かわいいワンちゃんですね」 「シルビア、これは犬では」 ゴルドンが止める間もなく、子犬が差し出されたシルビアの、白く細い手にかみついた 「きゃあ~!!」 「……シルビア、それは、白犬ではない。銀狼の子どもだ。神獣王の眷属だ……」 すっと寄ってきたダークエルフ、シルビアの母親、アーゼリンが、訥々という。 子犬?に噛まれて涙目になっているシルビアにヒーリングを掛けてやる。 「あう~、ひどい……。なんですか眷属って……」 シルビアは、ゴルドンの太い腕、それこそシルビアの腰ほどの太さがある、腕に抱かれてて、シルビアを威嚇続けている、銀狼の子どもをこわごわと眺めながら聞く。 「我も母者から聞いただけだから詳しくは知らぬ。 強くて人間並みに頭が良い、神の力を与えられた狼らしい」 「はるかな昔のものがたり。近くて遠いかくりよの、神世の刻の物語」 ゴルドンがシルビアの疑問に首を振ると、かわってアーゼリンが歌うように語りだす。 「神話の時代、大戦があった。  神々は、光と闇に分かれて、相争った。  強力な魔法、邪悪なデーモン、そしてあまたの竜王が戦の尖兵に呼び出された」 この世ではない、だがよく似た世界の物語。 「巨大な隕石に体を、デーモンのおぞましい魔法に体を蝕まれ、竜王の炎に焼き尽くされ、多くの神々がその体を失った」 神々の戦の様子が、アーゼリンの低く美しい声に乗って、訥々と語られる。 「だが、神々はみな兄弟親戚。相争うことを嫌った者たちもいた……。 かれらは、戦から逃れ、はるかな土地に逃げ延びた。 だが、闇の神々が放った刺客である、竜王たちは、彼らのことも見逃さなかった」 シルビアも、ゴルドンも、なぜか銀狼の子どもも、その詩に聞き入っているようだ。 「神々の体はあまりにも、人とは比べ物にならない、大いなる力に満ちていた。 その力を竜王たちが見逃すはずがなかったのだ。竜王たちに追いつかれ、幾柱もの神々が体を失った」 「逃げきれぬと悟った神々は、自らの体を作り変えて、竜王たちの目から欺くことにした。神々は、逃げ延びた土地に生きる、様々な動物たちの姿かたちを借りた。 自らの体を獣に作り替えた神々は、神の獣、神獣とよばれ、獣の体に落ちたとしても、人々の信仰を受け続けた」 「その時に姿を借りた動物たちは、神と、大きさと力は違えど、同じ姿をしていた。 彼らは、神獣の眷属とよばれ、特別な力を与えられて、信仰と保護の対象となった。」 そこで、ふと、アーゼリンは手を伸ばすと、銀狼の子どもをなでる。 「この子は、神獣の眷属の一つ、それも、神獣の長の眷属、銀狼かもしれない」 「そんな話が……」 獣に身を落とした神の話など、シルビアはかけらも聞いたことがなかった。 この世の実際の話ではなく、小説の話ではないのか。 「稀人(どこかから迷いこんだ不思議な人たち)が残した話らしい」 稀人、その名の通り、ごくまれに現れる変わった人々だ。この世の理にそぐわない不思議な話や力を持っていることがある。狂人として扱われることもあるが。一説によると、別の世界からの来訪者らしい。その存在自体が作り話とも言われているが。その稀人が語った話となると……。 「お母様……、虎も知らないのに、よくそんなことを知っていますね」 「……私は吟遊詩人だ。神話はもちろん、稀人の話にも通じている」 アーゼリンは、少し得意げに鼻を鳴らす。 「ほめていませんよ」 シルビアはいつもの母の様子にため息をつく。 疑わし気に白い狼?を眺めるが、銀狼が牙をむきだすと、慌てて後ろに飛びのいた。

さかいきしお

コメント (1)

Alicia Stuart
2023年10月09日 13時44分

さかいきしお

2023年10月09日 14時02分

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