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コンバットメイドブロント ~紅茶道の逆襲~

午前の和室茶道対決にて、ブロント少尉は富士見軍曹の流れるような所作、静謐な空気に圧倒され、完膚なきまでに敗北を喫した。 「ぬぅ…これは訓練ではなかったのか……?」と呟きつつ、黒塗りの畳に正座していたその背中には、敗者特有の静けさがあった。 だが、午後。 ブロント少尉は、自らの主戦場たる洋の陣へと戦地を移す。 「……少尉殿。これは一体、何の訓練でしょうか?」 金髪をふわりとなびかせながら、軍服の上に無理やり重ねたフリルエプロン姿のブロント少尉を、おぞましげに見つめながら富士見軍曹がつぶやく 「ふふん、富士見軍曹。わたくしは午前の失敗より学びを得た。つまり──洋式戦術による紅茶道の逆襲を実行する、ということであります!」 「……せめて日本語でお願いします」 「では、紅茶の儀、始めます──ッ!!」 スルーして、ブロント少尉、いつになく真剣な顔で構えた。 銀のティーポットが、ひとつ、静かに持ち上げられた。 磨き上げられた金属の光沢は、天窓から射す陽光を受けて、まるで祭壇に置かれた聖器のように鈍く煌めく。柄を取る手の角度は完璧だった。手首の角度、指の添え方、肘の張り具合──軍式の銃操法すら思い起こさせる、精密さと規律がその動作には宿っている。 カップの位置は既に正されていた。中心線と左右の距離、対角線の重なりまで計算されたように。まるで戦場に地雷を埋めるかのような厳密さで、ティーカップが配置されていた。 一滴、注がれた。 次の瞬間、流れる湯が糸のように細く、しかし力強く落ちていく。 滲むことも、跳ねることもない。カップの中心にぴたりと命中し、そのまま均等に渦を描きながら紅茶が満たされていく。 その姿は──。 美しい、と確かに思った。 それは「美しい紅茶の所作」ではなく、「完璧に調整された機械の一動作」のような美しさだった。 メイド服の袖口から覗く腕はしなやかでありながら、わずかに浮いた静脈と、皮膚の下に蠢く筋肉が不釣り合いに見える。 紅茶を注ぐたび、細く引き締まった腰に吊るされたナイフの柄が、かすかに揺れた。 ティーカップを満たし終えたブロント少尉は、無言でひとつ深く息を吐き、静かにティーポットを下ろした。 音はしなかった。 あまりに静かに置かれたので、逆に空気が揺れた気がした。 紅茶の香りが広がる。 それは間違いなく上質な葉だ。芳香、深み、柔らかさ、すべてが本物だった。だが、香りの先に感じる気配──なにか、別のものが混ざっていた。 これは果たして、誰が入れたのだろうか? ──本当に、目の前のその人間が? このメイド姿の“ブロント少尉”なる存在が? 視線を上げる。 ブロント少尉は微笑んでいた。 まっすぐに、何の曇りもない笑みだった。 完璧な所作、完璧な給仕。 だが、それを行うその人物の“存在”だけが、完璧に異質だった。 武骨な軍靴の爪先。かすかに見え隠れするホルスター。 メイド服の腰から伸びた、やたらと高精度なナイフの柄。 まるで、これが“本来の姿”であるかのように、そのすべてが調和していた。 だが、それが──恐ろしいのだ。 「──……」 言葉が出なかった。 視界が妙に鮮明になる。脳が、危険を感知して集中を始めていた。 まるで銃口の先に立たされたような緊張感。紅茶の香りすら、敵意と錯覚しそうなほどだ。 紅茶を注ぐ、ただそれだけの所作だった。 だが富士見軍曹は、思った。 これは儀式だ。 これは何かを祓い、同時に封じるための、戦場の儀式だ。 紅茶を一口、口に運ぶ。 完璧な味。完璧な温度。完璧な香り。──完璧な、違和感。 富士見軍曹は、目を細めて、目の前の“戦闘用紅茶給仕ユニット”のような少尉を、改めて見た。 「……なんなんですか、貴女は」 ようやく出た言葉は、問いではなく、祈りにも似た呟きだった。

さかいきしお

コメント (17)

ucchie2772
2025年04月19日 13時45分
Jutaro009
2025年04月17日 12時52分
ガボドゲ
2025年04月17日 10時44分
翡翠よろず
2025年04月17日 00時49分
早渚 凪

何にでも発揮される負けず嫌い精神

2025年04月16日 15時14分
Kinnoya

少尉殿は、マルチすぎる🫡

2025年04月16日 15時08分
うろんうろん -uron uron-

紅茶の儀すっごいニャ!

2025年04月16日 14時03分
五月雨

わたくしのメイド達にも見習って欲しいですわね!

2025年04月16日 14時00分

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