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紫の香りと、落ちた記憶

帝国陸軍第七混成部隊、野営地の一角。 昼休み、簡素な折り畳みテーブルの上に、ブロント少尉はご機嫌な様子で花柄エプロン姿のまま、手際よくおにぎりを握っていた。 黒詰襟の軍服にミニスカート、腰には軍用短剣。 そして、エプロンにはラベンダーの小花が愛らしく並んでいる。 「ふふふっ。できたわ…この香り、この色…紫蘇とはまた違う趣、きっとお母様もお好きだったはずよ!」 少尉がそうつぶやきながら瓶を見つめると、中にはラベンダーの香りが移った薄紫色の梅干しが美しく並んでいる。 梅干しと呼ぶには香りも色も異質だったが、本人は満面の笑顔で満足げだった。 「……少尉、それ絶対おかしいですって」 数歩離れた場所では、富士見軍曹が鼻を摘みながら引きつった顔で立っていた。 彼女は黒髪ボブにタイトスカートの、普段はクールな雰囲気だが、今は顔面蒼白、漂う**強烈な芳香(という名の刺激臭)**に身を引いていた。 「ほら見てください、この上品な色!まるで高貴な香りを纏った紫蘇ですよ!」 「それラベンダーですって。ラベンダーって食用じゃないのが多いから、普通梅干しにもおにぎりに使わないですから!紫蘇の仲間って言っても別物ですよ!!」 「でも香りが…気持ちを落ち着けてくれるのよ?ラベンダーの精霊が語りかけてくる気がするの……!」 軍曹はもう止める気力もなく、遠い目をしてため息を吐いた。 ブロント少尉は意気揚々と、そのラベンダー梅干し入りおにぎりを一口ぱくり。 …… 数秒の沈黙。 ごくり。 ぱたり。 泡を吹いて、昏倒。 「!? ちょっ、うそでしょ!? 食中毒!? 本当に倒れた!?」 軍曹が駆け寄り、慌てて脈を確認する。 命に別状はなさそうだが、ブロント少尉はぐったりしたまま動かない。 「まず過ぎて気絶?まったくもう……。なにやってるんですか。ったく……」 正座した軍曹の膝の上にそっと頭を乗せられ、しばらくの沈黙。 そこに、不意に寝言のような声が漏れる。 「……お母様……」 富士見軍曹の顔がぴくりと引きつる。 「……あんたみたいな娘がいるかあああッ!!」 ばしんッ! 軍曹はそのまま膝を引き、ブロント少尉の頭を容赦なく床へ。 「いたた……!? な、なにが起きたの……?」 目を覚ましたブロント少尉はきょとんとしながら軍曹を見上げた。 「二度と食べ物でラベンダーを使わないと誓いなさい。今すぐです」 「……は、はい」 野営地にラベンダーの香りがふわりと残る中、さわやかな昼休みは強制終了を迎えた。

さかいきしお

コメント (20)

Kinnoya
2025年05月11日 10時53分

さかいきしお

2025年05月13日 12時49分

早渚 凪

少なくともトリカブトの件と今回の件で少尉にまともな植物知識がないのははっきり分かった

2025年05月11日 00時53分

さかいきしお

知識が変に偏っているようです。余計にたちが悪いですが

2025年05月13日 12時48分

magic
2025年05月10日 23時05分

さかいきしお

2025年05月13日 12時48分

仮免許練習中
2025年05月10日 14時06分

さかいきしお

2025年05月13日 12時46分

五月雨

確かに軍曹はママみがありますわね!

2025年05月10日 14時01分

さかいきしお

おや、レイ、呼んだか?

2025年05月13日 12時45分

へねっと

ラベンダーは食えるのか?

2025年05月10日 13時30分

さかいきしお

香りづけぐらいにしか使わないはずです

2025年05月13日 12時41分

みやび
2025年05月10日 12時23分

さかいきしお

2025年05月13日 12時40分

うろんうろん -uron uron-

やっばいニャ〜(TOT)

2025年05月10日 12時21分

さかいきしお

てへへ

2025年05月13日 12時40分

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