シャーリー・クラウン講義劇場：セキュリティ講座「忍法化け猫の術」

賢者の学院、格闘訓練場。シャーリーは、いつもの女学生制服と赤い金縁マント姿で壇上に立っている。 「皆々さま～、本日の模擬戦は、**『究極の自己防衛術・忍法化け猫の術』**でござる！」 シャーリーは赤金縁のマントを翻す。その影には、何かが潜んでいるように、マントの生地が微かに膨らんでいた。 「ふひひ♡ この術は、油断こそが最大の隙であるという教訓でございます。シルビア先生は優秀な賢者でございますが、賢者様が最も警戒できないものこそ、私の最大の武器でございますのよ」 シルビア准導師は、警戒の面持ちで相対している。彼女は、シャーリーの**「警戒すべきもの」という言葉に、「まさか、あのどら猫（ケティ）ではないでしょうね」と内心で鋭く勘繰る。普段から感覚リンクを切っているケティが、また何か悪さを企んでいるのでは、という「予測」が、逆に「油断」**の土台となりつつあった。 「では、シャーリー先生。正々堂々とお手合わせ願いますわ」 シルビアは、品性ある言葉で応じた。 試合開始の合図。 シルビアは即座に詠唱を開始する。初級魔法でシャーリーの隠密行動を牽制する構えだ。 その瞬間、シャーリーは叫んだ。 「忍法！化け猫の術！」 シャーリーはマントを大きく翻し、自らの身体を覆い隠す。次の瞬間、シャーリーはマントを床に払い捨てるようにして、高速でシルビアの死角へと跳躍した。 マントが床に落ちる。マントの影だった場所からは、一匹の黒猫が飛び出した。 だが、それは単なる黒猫ではない。 その猫は空中で光の粒子に包まれ、童女の姿へと人化した。猫耳と二本の尻尾を持つ、可愛らしい姿のケティである。 「むー、ご主人たま、おやつ！おやつよこすにゃ、今すぐにゃ！」 ケティは、不満げに頬を膨らませながら、シルビアめがけて一直線に飛びつき、その体にぎゅっと抱きついた。 「ケティ！」 シルビアの詠唱は、自身の使い魔の予想外の行動により完全に中断された。ケティは**「正式な使い魔」であり、「可愛い童女」である。シルビアは倫理と品性**から、ケティを乱暴に引き剥がすことができない。 そして、シャーリーはケティがシルビアに抱きつくことで生まれた、わずかな攻撃機会を見逃さなかった。シャーリーは、隠れていた死角から飛び出し、模擬短剣をシルビアの喉元へ向けて突き出す。 しかし、ケティはすんなり他人の思惑に乗らない。 ケティは、**「ご主人たまが、これ以上困ったら後でおやつが貰えない」**という世慣れた知恵と、ご主人たまへの愛着から、反射的に、そして無意識に動いた。ケティは、抱きついたまま、シルビアの身体をわずかにずらし、自分の体をシャーリーの短剣の軌道上へねじ込んだ。 「にゃあ！」 シャーリーの模擬短剣が宙で止まる。シャーリーの短剣はシルビアに触れず、ケティも傷つけなかった。 「ふひひ、さすがは百年生きた化け猫でござる。**私が突いた『欲望』を、『愛着』**で跳ね返すとは……」シャーリーは短剣を収め、その場で立ち尽くした。 「むぅ！忍者、ずるいにゃ！ケティのおやつ、とばすつもりだったにゃ？！」 ケティは頬を膨らませ、不満げにシャーリーを睨みつけながら、団子を頬張り、シルビアの顔を見上げる。 「ご主人たま！これ、おいしいにゃ！今度からケティのために用意しておくんだにゃ！」 シルビアは、悔しさと安堵が混じった複雑な表情で、ケティの頭を優しく撫でた。下品な言葉は使えないため、静かに**「あなたったら、本当に……」**とだけ呟いた。 学院長の裁定は、「乱戦による攻撃機会の消滅。両者ドロー！」 シャーリーの講義は、「最も愛すべき、最も制御不能なものが、最悪の危機を回避する鍵となりうる」という、予測不能なマジックパンク世界における究極の教訓を残したのであった。