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正しいこぶしと不運のこけし
乾いた音が、訓練場に響いた。 正拳突き―― 教範どおり、完璧な踏み込み。 腰の回転、肩の入り、拳の伸び。 「ふふふ……」 ブロント少尉は、拳を突き出したまま、満ち足りた笑みを浮かべる。 「改心の一撃、ですね。 木人相手とはいえ、理想的です」 背後では、巨大なこけし型訓練標が、何の感情もなく立っている。 黒髪ロング、ふてぶてしい半目。 赤いマントのような着物が、やけに威圧的だ。 ――その頭上。 若菜少尉は、それを見上げ、息を吸う。 たらい。 「少尉」 「今の一撃――」 「後ろ」 影が、落ちた。 巨大なシャーリーこけしは、何も言わない。 ただ、相変わらずの表情で、すべてを見下ろしていた。 ――こけしは反撃しない。 環境が、する。
