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チョコ民党当主・猪口民子捕縛作戦
――抹茶憲兵隊 行動記録より ミント畑は、やけに完璧だった。 葉は背の高さを超え、風向きは一定。 視界は遮られ、香りは濃厚。 隠密行動には、これ以上ない環境――のはずだ。 「……抹茶憲兵隊、ブロント少尉。 ミント畑内部に潜入完了。現在、腹ばいで偵察中……」 金髪のポニーテールを抑え、少尉は伏せたまま双眼鏡を構える。 体は極力低く、呼吸は浅く。 ミント色迷彩は完璧に周囲へ溶け込んでいた。 問題は――匂いだ。 (……強すぎる) 鼻腔を刺す清涼感。 頭が冴えるようで、同時にどこか感覚が軽い。 少尉は無意識に、携帯食を取り出していた。 チョコミントモナカ。 (栄養補給は必要だ。合理的判断だ……) 一口。 甘さと清涼感が舌に広がる。 (……?) 双眼鏡の焦点が、一瞬ずれた。 (おかしい……注意力が……) その時だった。 「チョコミント、うまいか~?」 「――ッ!?」 心臓が跳ね上がる。 伏せたまま、反射的に振り返った。 すぐ後ろ。 そこに立っていたのは―― ピンクのボブヘア、猫耳、小柄な体躯。 チョコミントグリーンのミニスカ軍服に、尻尾を揺らす少女。 「……猪口、民子……!」 「くくく……」 猫耳の党首はミント色の軍服に身を包み愉快そうに目を細めた。 「な、何……!?ば、ばかな……! これがミントの毒効成分の恐ろしさか!! 嗅覚、味覚、注意力…… 感覚を攪乱された!!」 「ほう、毒とな」 その言葉を聞いて、 猪口民子は、くくく、と小さく笑った。 「ミントはな、 使い方次第で“覚醒”にも“隠密”にもなる」 尻尾が、ゆらりと揺れた。 「それを毒と言うのは、 扱いを誤った者の言い訳よ」 「……っ」 「ましてや――」 彼女は、少尉の手元のモナカを見て、にやりと笑う。 「チョコ民党当主が、 チョコミントの匂いに気づかないとでも思うたか?」 沈黙。 ミント畑を、風が抜ける。 「……作戦は、失敗です」 少尉がそう告げると、 猪口民子は満足そうにうなずいた。 「うむ」 一拍置いて。 「だが、悪くはなかったぞ」 少尉は観念して、残っていたモナカを一本差し出す。 「……余剰の携帯食です」 「ほう?」 彼女はそれを受け取り、にこりと笑った。 「一緒に食べましょう」 「……了解」 「では――」 「もらうぞ~」 ミント畑の真ん中で、 二人並んで伏せたまま、チョコミントをかじる。 捕縛は行われなかった。 代わりに、補給物資が消失した。 後日、報告書にはこう記された。 『ミントは毒ではない。 ただし、少尉には効きすぎた』 ――以上。 「抹茶もありますよ!!食べます?」 「……」
