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肉じゃが?――じゃがいもはあるよね!
簡易調理台の前で、チェルキーは腕を組んで唸っていた。 「ふむふむ……“肉じゃがは、甘辛く煮る。味噌が決め手”……っと」 手に持っているのは、ついさっき届いた電文の写し。 差出人は――例の、黒い軍服の少尉だ。 「なるほどねぇ。戦場で食べる家庭料理……いいじゃん、それ!」 チェルキーはにこっと笑い、背負い袋から食材を並べていく。 じゃがいも。 玉ねぎ。 人参。 干し肉(保存食だが質は悪くない)。 「素材は問題なし! 問題は――」 彼女は首をかしげ、調味料箱を開けた。 塩。 胡椒。 乾燥ハーブ。 ワイン。 バター。 ブイヨンキューブ。 「……味噌、ないよね。うん、知ってた」 一瞬だけ眉を下げるが、すぐに表情は快活に戻る。 「でもさ、少尉が言ってた“コク”って、要は発酵と旨味でしょ?」 ブイヨンを指でつまみ、ワイン瓶を軽く揺らす。 「なら、出汁はこれ! 甘みは玉ねぎ! 発酵っぽさは……うーん、バターとワインで代用だね!」 火を起こし、鍋に油を引く。 肉を焼く音が、野営地に小気味よく響いた。 「よしよし、いい香り! ここで野菜を入れて……少尉の言う“煮る”ってやつだね!」 水を注ぎ、ブイヨンを放り込み、ぐつぐつと煮込む。 最後に、思い切ってバターをひとかけ。 「……あれ?」 湯気の向こうから立ちのぼる香りに、チェルキーはぱちぱちと瞬きをした。 「これ……肉じゃが、なのかな? でも……」 スプーンですくって一口。 「…………おいしい」 思わず笑ってしまう。 「おかしいな? 少尉の話を再現しようとしたのに……」 鍋の中では、どこからどう見ても西洋風の煮込み料理が完成しつつあった。 「ま、いっか! “肉じゃが風シチュー”ってことで!」 その瞬間―― 「くまっ! いい匂いするくまー!」 背後から、元気な声が飛んできた。 チェルキーが振り返ると、熊耳の美少女がにこにこしながら鍋を覗き込んでいる。 「え、なに? プーにゃん、いつの間に!」 「細かいことはいいくま! 美味しければ、正義くま!」 「……それ、少尉にも聞かせたいセリフだね」 二人の笑い声と、湯気立つ鍋。 こうして、肉じゃがを目指した何かは、無事に夕食として成立するのだった。
