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黒き聖騎士
リリスが、シスター善哉もとい枢機卿(カーディナル)に酒をおごります。 高くつきます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「枢機卿!!こちらでしたか」 扉が開いて、武装した男たち、神官戦士たちが飛び込んでくる。 カウンターに座り、グラスを傾けていた美女が物憂げに振り返る。 ゆったりとした修道服に、青いベレー帽を被り、赤い眼鏡をかけた、豪奢な黄金色の髪の美女だ。 「このような場所で、飲酒などと御身に相応しくない!! お連れしろ!!」 美女の両脇を押さえるように近づく神官戦士たち。 「待ちな!!」 その時、カウンターの向こうからバーテンダーの声がかかる。 「ここは、酒場だ!!酒を飲む場所だ!!」 バーテンダーの声は、屈強な神官戦士たちの動きを止める強さと響きがあった。 バーテンダーは、シェーカを振り、手早く真っ赤なカクテルを注ぐ。 「飲んでいけ」 人数分カウンターに置かれたグラスを前に、ハーフエルフのバーテンダー、リリスが静かな声で言う。 「遠慮するな。ファラリアの祝福の酒だ」 グラスに注がれた真っ赤な、血を思わせる酒を見て、神官戦士たちに動揺が走る。 だが、神官戦士の中から一人、ただ一人、黒い鎧とマントを身に着けた男が進み出る。 「たっ、隊長……」 先ほどから声を荒げていた男は隊長ではなかったらしい。 黒衣の隊長は、カウンターに近づくと、血の色に染まったグラスを手に取る。 そして、一気に飲み干した。 「うまい酒だ。次はファリア様の聖杯で頂きたいな」 「ふん……」 ドワーフでさえ良い潰すほどの強烈なカクテルを、一気に煽った黒衣の隊長に、リリスはつまらなそうに鼻を鳴らす。 「行くぞ・・・・・・」 隊長は、部下たちに声をかけると、枢機卿とリリスに背を向ける。 だが 扉を開ける寸前に、振り返って言う。 「私の部下は酒をたしなまぬ者が多い。今宵は楽しまれると良いでしょう」 枢機卿に、リリスに、あるいは誰に掛けられた言葉だろうか。 「シスター善哉、あの黒づくめは誰?」 気配を消すように、壁側に立っていたダキニラが聞く。 「隣の国の奴らだな。訛でわかったぞ」 普段はひょうきんで変人なチャーリーウッドが素に戻って続ける。 当のカーディナル事、シスター善哉は、隊長が飲み干したグラスを、うらやましそうに眺めていたが。 「ファリア本神殿派遣の神官戦士 ガイゼル・シュトルツ」 「黒の聖騎士(シュヴァルツ・パラディン)、ファリアの鋼律(こうりつ)とも呼ばれているわ」 善哉は、リリスが作ってやった真っ赤なカクテルを飲み干してから続けた。
