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ブロント少尉、雨の儀式と東屋と軍曹
――野良塾・帝都郊外の家庭菜園エリア。 その日、朝のヨガから続けて、ブロント少尉は農作業に勤しんでいた。 クラシックな白の運動用Tシャツに、濃紺のブルマ、そして軍指定のゴム長靴。 柔らかく陽射しが降り注ぐ中、彼女は小さな鍬で畝を整えていた。 「ジャガイモの土寄せは、呼吸と力の配分が鍵……まるで突撃前の心構えと同じです」 そんな風にひとり呟きながら、泥だらけの手で髪をかき上げる――そのとき。 ぽつ、ぽつ……ぽつぽつぽつ。 空から滴り落ちる冷たいしずく。 瞬く間に、畑全体がにわか雨に包まれる。 しかし彼女は動じない。 透明なビニール製のレインコートを、クーラーボックスから迷いなく取り出し、 静かに羽織りながら、空を仰いだ。 「……恵みの雨ですね。天の加護が、作物にも我々にも平等に降り注いでいるのです」 微笑みながら、濡れることも厭わず、泥に手を伸ばし続けるブロント少尉。 金髪のポニーテールが雨に濡れて光る様は、まさに自然と調和する“兵の女神”。 だが――。 「ちょっとぉぉぉおおお!! 何してるの少尉ィ!!」 疾風のごとく駆けてくる影。 迷彩柄の軍服、濡れた地面を蹴る軽やかなステップ、小柄ながら鋭い眼差し。 富士見二等軍曹、緊急出動である。 「少尉、泥だらけじゃないですか! タオル、これ使ってください、ていうか東屋! 東屋に避難してぇ!!」 「いえ、この雨には意味が……」 「意味とかじゃないですから! 雨に“勝つ”とか“共存”とかしなくていいから!!」 ずるずると東屋まで引きずられるブロント少尉。 軍曹は素早くタオルを広げると、少尉の金髪ポニテをそっとつかみ―― 「……髪からいきますよ、はい、ちょっと頭下げて。あと服、Tシャツぴったりしすぎ……これは汗じゃない、雨です。ほら、肩も拭く!」 「ごしごしと……まるで訓練後の銃の手入れのようですね……」 「黙っててください、笑顔で言うことじゃないの、少尉!!」 ブロント少尉の涼やかな顔に、軍曹の苦悩がにじむ。 だが、彼女の手つきは優しかった。 心配と尊敬と呆れが入り混じったその仕草が、雨音に混じって穏やかに響く。 やがて、雨は上がり――空には一筋の虹が。 「……見てください、軍曹。自然は、我々の営みをちゃんと見ていてくれるんです」 「はいはい、だからって風邪ひいたら意味ないでしょ。次はちゃんと予報チェックしてから来てください」 「了解しました……次回からは、防水戦闘服の導入を検討します」 「そういう話じゃない!」 東屋の下で笑い合うふたりの軍人と、虹に見守られる畑。 今日も野良塾には、静かで力強い“平和”が流れていた。
