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この肉、何の肉?
「うーまーっ……! これクマ、生きててよかったって味だよ!」 プーにゃんが両手に抱えた肉に夢中でむしゃぶりつきながら、クマミミをぷるぷる揺らしていた。 「うふふ、ちょっとスパイス足して焼き直したら、皮がパリッパリになって最高だよ」 チェルキーが緑のポニーテールを弾ませながら、肉にフォークを刺して頬張る。金属の腕当てに夕陽が反射してきらりと光った。 焚き火の向こうで、ブロント少尉が得意満面に頷いた。 「ふふん……これはわたしの采配によるものである! 肉の旨味も、調理の手順も、すべて想定通り!」 「……で、改めて聞きますけど」 YUMEが淡々とカメラを構えながら呟いた。 「その肉、何の肉なんです?」 ピタリと会話が止まる。焚き火の音だけが、パチパチと静かに響いた。 「……あれ、だよな?」 と、誰かがつぶやいた。 ――回想:夕方、ジャングルの外れにて。 「巨大魔獣接近……識別反応:キングベヒーモス相当!」 YUMEのAI音声がアラートを鳴らす。 赤黒い皮膚、ぎらつく牙、背中の棘、ぐるぐると巻いたような大角。地響きを立てて現れた巨獣は、まさしく伝説級魔獣――キングベヒーモスそのものに見えた。 「こいつはヤバいやつだ……!」 チャーリーがマントを翻しながら叫ぶ。 「くっ……わたしが前に出る! 軍刀、抜刀ッ!」 ブロント少尉が風に金髪のポニーテールをなびかせ、構えた。 「任せて! 神の加護と大薙刀、両方でいくよっ」 チェルキーが魔法陣と共にグレイブを構える。 「くま、くま、くまぁああああああああああっ!!!」 プーにゃんが目を赤く光らせ、クマオーラをまとい、巨大な光の爪を形成して突撃! ……そして―― 「へぶっ」 ドスン。 あっけなく倒れる巨獣。 「……え? 一撃?」 チェルキーが魔法を出す間もなく唖然。 「なんか……噛み応えなかった……」 プーにゃんが口を尖らせている。 そのとき、チャーリーが手元の鑑定巻物を取り出して呟いた。 「名称判別完了。こやつの正体……キングペピーポス」 「……ぺ、ペピーポス?」 全員が揃って聞き返した。 「正確には、キングベヒーモスに擬態する種族の一種。脅しとハッタリだけは一人前だが、戦闘能力は極めて低く、見た目と名前で7割誤認させて生き延びてきたとのこと……って書いてある」 「つまり……」 YUMEがレンズ越しにジト目を向ける。 「ただのニセモノ……?」 「だが肉はうまい」 と、ブロント少尉がドヤ顔で断言した。 ――現在・バーベキュー場。 「ふっふっふ……偽物の命を無駄にせず、糧とした。それがこの我らのBBQである!」 ブロント少尉が、カメラ目線でサムズアップ。 「一応、魔物だけど無害系だったみたいだし、肉質は高品質だったよ」 チェルキーが舌なめずりしている。 「くま、これまた食べたいくま」 プーにゃんは三本目の骨付き肉を構え、目を輝かせていた。 YUMEはため息をつきながらも、カメラを向けて撮影を再開した。 「……タイトルは……『キングペピーポス、焼かれる』で」 焚き火の炎は、今日も美味しい嘘を照らしていた。
