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シャーリーの変身講座~マスカラと詐欺のあいだ~
「はぁ!? お前が……チャーリー!? いや、どこにいんだよチャーリーは!? そのメイド猫耳ビッチ誰だよ!!」 リリスが声を張り上げると、カウンターの向こうでポーズを決めていた黒猫メイド姿の美女が、クルッと振り向いた。 「拙尼(せっに)はシャーリーでございます♡」 「ふざけんな!!!!」 ──怒号がカフェの空気を切り裂いた。 「それじゃご要望にお応えして、変身講座、開幕しましょうか♡」 「ちょっと待て! なんでこっちが要望した体になってんだよ!」 だが、もう誰にも止められない。チャーリー、もとい“シャーリー”は、カフェの一角を勝手にメイクステーションに作り替え、メイク道具一式を並べていた。 リリスが渋い顔で睨むと、シャーリーは眼鏡を外し、つけ髭を指先でクルクルと巻きながら言った。 「この眼鏡、実は“目を小さく見せる効果”ですね。あとは、付け髭と口元の影で男顔補正。盗賊技能《変装》の応用ですね」 「……クソ、腹立つほど技術が細けえな」 「では次に──マスカラです」 パチン、と音を立ててマスカラブラシのキャップを外し、スッと睫毛に沿わせる。既に盛られたつけまつげの上から、黒く、艶やかに伸びる繊維。 「睫毛一本一本に魂を込める。それが“視線の錯覚”を生むのです。この一瞬の集中力が、任務の成否を分ける」 「いや、任務で何やってんだよお前……!?」 「そして──これ」 つけまつげケースを開けると、中には3段階の厚みを持つまつげが収まっていた。 「この“段階式つけま”こそ、顔の印象操作の要です。内側薄く、外側濃く。つまり、目尻強調=色っぽさ増加」 「……あーもう! ちょっと試してみたくなるのがムカつく!!」 「ふふっ、リリスさん。あなたはもう、シャーリーの術中にハマっています♡」 ミラー越しに、女装前の神父チャーリーが映る。疲れた中年顔、やや下がり眉、でも睫毛はやたら長い。そして、その隣には、**別人のように化けたメイド猫耳美女“シャーリー”**が笑っている。 そのギャップに、リリスは頭を抱えた。 「これが……詐欺……ッ!!」 「いえ、“表現”です♡」 「うるせぇよ!!!!」 リリスの叫びがカフェに響き渡る頃、すでに背景では、シャーリーによる次回の講座用チュートリアル動画が録画され始めていた。
