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召喚装具、発見される
アイピク島、風化した岩肌の裂け目から覗く鉄骨の断面。木材とコンクリートが絡み合う奇妙な廃墟に、今日もまた探検者たちの足音が響く。 「うわ……今回は本格的に現代的ね。なんか、楽屋みたいな空気」 金髪ポニーテールの少女、ブロント少尉は目を輝かせて叫ぶ。黒い軍服風の上着に、同じく黒のプリーツミニスカート。 腰には玩具のような短剣と本物の水筒。 肩掛けのポーチにはサイバーパンク風の小道具が無造作に収められている。 「衣装ラックもあるし、照明設備も……やっぱり舞台裏じゃない?」 呆れ気味にそう呟いたのはリリス。銀髪ロングを揺らし、黒いハイネックドレスに白いエプロンドレスを重ねた、クールビューティなハーフエルフのシーフ。表情は険しいが、常に一歩引いた観察者のような佇まいだ。 「これは……!みんな!!こっちに妙な装備が!」 ドワーフでありながら小柄で可憐な容姿を持つチェルキーが、陳列棚にあった一際目立つ金属製のガントレットを指さしながら言った。に取った。緑髪のポニーテールが揺れ、耳の先がぴくりと動く。 「うわ、なにこれ。……でっか! タブレット?スマートウォッチ?どっちにしろ腕にはめるには大きすぎるよね。」 ブロント少尉が覗き込みながら言う。 「う~ん拙僧の見識によると、この魔法陣は召喚呪文に似てる気がするな……。陣の線が足りないが。子供でもこんな間違い方はしないだろうが」 場に似つかわしくない妙な一人称のひょうげた声を発したのは、黒衣に身を包んだ中年の男、チャーリー・ウッド。 かつて地回りをしていた元ヤクザだが、今は幸運神に仕え、異世界の神託を聞く者でもある。 賢者の知識や魔法工学に疎い彼にも、胡散臭い代物に見えたらしい。 「ふふふ……これこそは魔神転生風装備の真髄では?」 「あっ、ちょ、ちょっと!!」 チェルキーが止める間もなく少尉がガントレットをはめた。 銀色の金属に埋め込まれたガラスのパネルが鈍く輝く。 「やっぱり似合うなぁ、私……こういうの」 と、突如―― 「ピッ。自爆カウントを開始します。あと10秒」 「へ?」 「9、8、7……」 「ちょ、待って!?これ、そういうギミック!?演出?演出でしょ!?演出って言ってよぉ!!」 慌ててガントレットを外そうとするも、びくともしない。チェルキーが慌てて駆け寄るが、操作パネルは謎の言語。 「はっ、はずれない!リリス!チャーリー!何か止める術は――」 「ポン!!」 紙吹雪が舞い、天井からクラッカーが弾ける。照明が一瞬暗くなり、舞台照明風の光が少尉を照らす。 「あなたは自爆しました!」 電子ボイスが鳴り響き、ブロント少尉の背後で、看板のようなLEDがチカチカと光った。 「なんでこんなギミックが……っ!ちょ、誰か笑ってない!?今笑ったでしょ!?笑ったでしょっっ!!」 リリスはため息をつき、チャーリーは鼻を鳴らし、チェルキーは肩を震わせながら震えている。 「まさか……というか、やっぱりというか。発掘品がギャググッズだったとはね……」 「……この島、ほんと何でもアリだね」 一同、脱力。だが少尉だけは、どこか満足げだった。 「これは……また一歩、女神の道(ロード)を進んだ証ですね。召喚装具を制する者は、やがて王(ロード)に――」 「少尉、だまってな」 リリスがぴしゃりという。 こうして、また一つ“謎の文明”が発掘された――が、どうやら今回はコスプレイベントの舞台裏だったらしい。 ブロント少尉の冒険は、まだまだ続く。
