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『姫騎士、乙女ロードに立つ』 ―乙女力編―
ブロント少尉が、悪役令嬢事レイちゃんと、乙女力勝負をします。……池袋で……。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 池袋駅、いけふくろう前。 午後の待ち合わせ時間、雑踏の中に**“異物感”が強烈に立ち上っている一人の人物**がいた。 ブロント少尉。 ストレートの金髪をポニテに束ね、鮮やかなサテン地のマントがふわりと揺れている。 淡いパステルカラーで彩られたレース装飾のプリーツスカートに、実物の鉄鎧の胸当て。 左腰には、煌びやかに磨かれた模造剣が下がっていた。 完全武装。しかしどこか少女的。まるで中世騎士団に迷い込んだ姫騎士風コスプレ。 懐中時計を見て、ふっと微笑む。 「……そろそろのはずです」 実はこの衣装、単なる趣味ではなかった。 鎧は、アイピク島でかつて出会った戦士たち――とくにチェルキーの装備に感銘を受けて譲ってもらった実物払い下げ。 地球産の保存調味料(出汁パック、醤油ベースソースなど)とのバーター取引で、チャーリーが手配を斡旋。 痛みやサイズを調整する修繕は、チェルキー本人に協力を仰ぎ、「ジャガイモのバター煮」を報酬にして説得した。 服やマントは少尉の手縫い。刺繍も丁寧で乙女力が光っていた。 剣は実物を寸法メモとスケッチで持ち帰り、地元の金属加工所で模造した精巧なレプリカ。銃刀法は心得ている。 すべては――今日のこの日のため。 「日本語では“ロード”としか聞こえません。これはダブルミーニングです」 「“乙女のロード”とは――“姫騎士が歩む誇り高き道”であり、“乙女なる君主”のことでもある」 「……この道(ロード)を歩む者は、いずれ“王(ロード)”になる資格を得るのです。深いですね」 彼女は、乙女ロードを“生き様の道”と勘違いしていた。 そのころ、駅構内に向かってくるもう一人の少女。 ドレス姿のレイちゃん。白い布が風をはらみ、髪の4本ドリルがくるくると揺れる。 「まったく、少尉ったら……“乙女力勝負”とか。池袋で何をやるつもりかしら……」 そして――いけふくろう前。 ド派手な姫騎士スタイルでポーズをキメる少尉と、バッチリ目が合う。 (……あ、やば あれ、ガチで乙女“ロード”を歩む気満々の顔してるじゃない……) 逃げ出すしかなかった。 「あっ! レイちゃん!! こっちです、こっちーーっ!!! ……えっ、え? う、うそ、もう走って――?はや!!」 駆けていくドリルヘアの背中を見送りながら、少尉はぽつりと呟く。 「……また、私の不戦勝ですね……」
