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天使の焼き跡

焦げつくような陽射しが傾きかけたアイピク島の午後。 訓練の合間のひととき、ブロント少尉は、ノースリーブに改造した詰襟軍服の袖ぐりを指で摘まみ、自慢げに二の腕を突き出していた。 「見ろ! これが広報部隊、レインボーエンジェルの誇り――七色の虹を背負う、黒衣の天使のタトゥーシールだ!」 灼熱の空の下、熱くなった肩を得意げにさらす少尉。その顔はどこか得意に紅潮している。 しかし、次の瞬間、涼やかな声が真横から飛んだ。 「自衛陸軍は、タトゥー(シール)禁止です――!!」 バリッ! シールが容赦なく剥がされる。冷たい手際。怒れる声の主は、富士見軍曹。整った黒髪ボブに小柄な体型、完璧に着こなされた夏制服のワイシャツがその威厳を引き立てる。 「うわっ……!!」 無様な悲鳴をあげて腕を押さえる少尉。その二の腕には、はっきりと天使のシルエットが日焼け跡となって残っていた。 「そ、そんなぁ……焼きついてるぅ……」 富士見軍曹は目を細めて冷たく告げた。 「自業自得ですね。では、炊事当番追加で。」 ――そして、数時間後。 長袖の詰襟軍服に戻ったブロント少尉が、汗をだらだら流しながら野外炊具の前で鍋をかき混ぜていた。明らかにぐったりしている。蒸し焼きである。 「くっ、この私が、……天使が……炊事天使……。だが、これもまた試練!!」 その姿を遠くから見ていた者がいた。 夜の帳が下りる直前の静寂の中、黒衣を揺らして近づいてくるひとりの少女――リリスだった。 銀髪の長い髪が風に舞い、冷ややかな水色の瞳が少尉の焼け跡に一瞥を送る。 「……なるほど。これが“焼き天使”ってわけ?」 「リリスさん……?」 「ったく、また馬鹿なことして。……でも、まあ」 リリスはふと視線を外し、ひとつ深く息を吐いた。 「このまま後まで残ったら洒落にならないわ。ほら、動かないで」 冷たい手がそっと二の腕に触れる。微かに黒い輝きが灯り、静かにその輪郭をなぞる。リリスが唱えるのは、ファラリア神の自由の祝詞。 本来、日焼けの治療など場違いともいえるその魔法が、彼女の手によって優しく効いていく。 「リ、リリス様……!」 焼き跡が消えた瞬間、少尉は目に涙をためて叫んだ。 「天使様ぁぁぁ!!」 「誰が天使よ。黒衣の堕天使って言うなら褒めてあげるけどね」 「ありがとうございますぅぅ!!」 ぎゅうっと、リリスに抱きつく少尉。拒絶もできずに固まるリリス。数秒間、沈黙。 「……暑い。あと、汗臭い。離れて」 「はいっ」 ぴしっと背を伸ばして直立する少尉。 リリスはため息をひとつ。 「……ほんと、暑苦しい女」 それでも、口元が少しだけ緩んでいたのは、夕焼けの陰に紛れて誰にも見えなかった。

さかいきしお

コメント (28)

うろんうろん -uron uron-
2025年08月10日 02時19分
Kinnoya

仲良しだね👍

2025年08月09日 12時49分
thi
2025年08月09日 12時05分
ガボドゲ
2025年08月09日 08時23分
早渚 凪
2025年08月08日 15時26分
white-azalea
2025年08月08日 14時58分
y1 紅
2025年08月08日 14時36分
五月雨
2025年08月08日 14時24分

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