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『月下の即興曲 ―黒衣と金髪―』
リリスがアイピク島の夜に一曲歌います。 https://suno.com/s/0iFoJhIKK7QcLQjZ ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 真夏の夜、アイピク島の広場。 屋台の灯りが揺れ、人々の笑い声が遠くに響く中、ふと響き渡るギターの音色。 赤いマントを羽織った少女が、ブレザー姿でクラシックギターを抱え、黙って弾いていた。 銀髪が月光を撫で、暗い瞳が観衆ではなく、空を見上げる。 リリス。 その音に導かれるように、ブロント少尉がジュース片手に歩み寄った。 「……へえ、歌うんだ、こんなとこで。」 「気が向いただけ。……聞きたいなら、勝手にどうぞ。」 そう言いながらも、リリスはギターの弦をもう一度軽く鳴らす。 ? 「月の砂 光る波 沈む陽に 溶ける夢 きみの声 遠くなる この手には 温もりだけ」 「……素敵だったよ。天使さま。」 「……てめえ、またそれか。」 「だって、いつも黒衣だ銀髪で美人で、ってあれ、今日はちょっと違うじゃん。 なんか、学校の制服? って感じ?」 「学院のやつだ。呪歌の科目、ちょっと受けてる。」 「へー、音楽系ってこと? 特待生とか?」 「……まあ、名前だけな。たまに行くと、チラチラ見てくる奴らがちょっとうざいが。」 「なんで見られるの? やっぱカッコいいし、綺麗だし、天使だし」 「“天使”って言うなっつってんだろ。天使」 リリスがギターのネックで少尉の額をコツンと軽く突く。 「”天使”とやらが気に食わん奴らもいるってことだよ」 「いてっ、暴力反対! でも痛くないから許す。」 「……バカか。」 少尉が笑って差し出したジュースを、リリスは小さくため息をつきながら受け取る。 「素直に受け取るんだ。やさしい。」 「礼くらいは受け取る。お前、昨日に治した日焼け、気にしてんのか?」 「いやー、せっかく治してもらったから、ちゃんと日焼け止め塗ってるよ! もう焼けない!」 「……そういうとこだけ真面目だな。」 リリスは微かに口元を緩めた。 潮風に揺れる赤いマント。 夏の夜にふわりと響くギターの余韻。 誰に向けるでもない歌だった。 けれどその場にいた者たちは、それぞれの心に、 何かを――ひとつ、持ち帰っていた。
