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うなれヨーヨー!! スケバン憲兵!!
士官学校の校庭には、夏の太陽が容赦なく降り注いでいた。半袖体操服の学生たちは汗をぬぐいながら、無秩序に走り回っている。しかし、彼女――ブロント少尉――の存在は、まるで別の世界からやってきたかのようだった。 黒の長袖セーラー服にロングスカート、黒タイツに軍用ブーツ。そして戦前陸軍憲兵風のイカマントに赤い腕章。手にはヨーヨーを握り、真剣な顔で立つ彼女の姿は、まさに「校庭の異物」だった。 「少尉、夏なのにその格好は服装規定違反です。さっさと着替えないと営倉行きですよ」 小柄で黒髪ボブの富士見軍曹が、タイトスカートの夏服姿で近づき、厳しい目で告げる。 少尉は一瞬、目を細めた。「これは正義の制服ですので……規定違反ではありません」と、真顔で答える。 その瞬間、イカマントの裾が風にヒラリと翻り、地面に何かが滑り落ちた。 パサリ。 富士見軍曹の目が点になる。少尉のマントの下から、少女マンガのコミック本が落ちたのだ。表紙には大きく「Sukeban Yo-Yo」と書かれており、描かれた少女は少尉にそっくり……だが微妙に違う。金髪のロングポニーテールに黒セーラー服、黒タイツ、そしてヨーヨーを構える戦闘ポーズ。まるでコミックの世界から飛び出したような誇張された可愛さだ。 「……少尉、そのマンガは一体……?」 富士見軍曹が呆れた声を上げる。だが少尉はまったく動揺せず、静かに前かがみになってマンガを拾い上げる。 「これは……現実の記録です。ノンフィクションですので」 遠くの方で、村上伍長(海兵曹長)は腕を組んで苦笑する。 「嬢ちゃん……そのノンフィクションは誰も信じねぇぞ……」 少尉はマントを整え、ヨーヨーを片手に再び構えた。 校庭の学生たちは困惑と笑いと尊敬の入り混じった表情で、夏の日差しの中、異様な軍人少女を見上げる。 少尉の心の声が、微かにだが確かに響いた。 「少年少女たちよ……この真実を、受け止めるのです……」 そして、『スケバンヨーヨー』のコミック本は、太陽の光を受けて地面に微かに輝き、少尉の異様さと少女マンガの世界を同時に映し出していた。
