ハウリング・ハウルと口モールス

場所：乾燥地帯の演習場。リゼット少佐は指揮所テント内、隊員は50メートル間隔で配置。 リゼット少佐： （ヘッドセットを通じて、規定音量で） 「これより、通信チェックを行う。各隊員はヘッドセットの電源、チャンネル設定を確認せよ。報告はプロトコルに従い、低音量で行うこと。……轟少尉、貴官のヘッドセット設定、完了しているか。準備よろしいか。」 カオスは、少佐の耳の隣で轟いた。 ブロント少尉（100m先）： （ヘッドセットを装着したまま、マイクの性能を完全に無視し、肉声レベルの大音量で） 「ハイッ！！心意気も満タンであります！！」 少佐のスマートグラスは**「音圧レベル：警告ラインを40dB超過」を示す赤い表示に切り替わった。他の隊員の通信チャンネルには、少尉の甲高い「心意気」が物理的な衝撃**となって注入される。 リゼット少佐（内部演算ログ）：音声解析：規格外の信号。通信規律、開始前に破綻。 エラー！ リゼット少佐： （激痛をこらえ、規定音量を保ちながら） 「轟少尉！！ヘッドセット使用を想定して通信せよ！！ なぜその高性能な機器を使わない！規定の音量とプロトコルを遵守せよ！！」 少尉は怒られたことに目を輝かせ、マイクに口を近づけた。そして、微細な、しかし不安定な音を発し始めた。 ブロント少尉： （マイク越しに） 「ディ！ダー！ディ！（R）…ディ！ディ！ダー！（U）…ダー！ダー！ダー！（O）…ディ！ダー！ディ！（R）……であります！」 少佐のスマートグラスが、かろうじて信号を拾い上げ、ホログラフィックディスプレイにモールス記号の断片が断続的に表示される。 リゼット少佐（内部演算ログ）：データ受信：轟少尉（ヘッドセット経由）。 音声解析：不安定な単音・長音。……システム判定：『モールス信号』であると断定される。 復 号化試行：R.U.O.R... 不規則な英語モールスの羅列。論理的なメッセージを形成せず。 論理的評価： 命令は**「ヘッドセットを使用せよ」であったが、少尉は非論理的な音の長さと間隔で不要なプロトコルを適用した。 通信効率は極限まで低下し、データはノイズとして処理される。なぜ普通の音声で「ロジャー」**と言わないのか！ リゼット少佐： （頭を抱え、システムが警告音を発する） 「……モールス信号は、単音と長音の比率が厳格な規律を要する！ なぜ普通の会話音量で返答しない！ 貴官は、論理的な道具を、論理的な破綻に導くためだけに使うのか！」 ブロント少尉： （ヘッドセットのマイク越しに、通常の１００メートルは届く音量で） 「少佐殿！ わたくしは今、モールスのディとダーに心意気を込めることで、通信の精度を高めているのであります！この非音声通信こそ、わたくしのH-FCSによる最高の出力であります！」 リゼット少佐： （ディスプレイに**「SYSTEM OVERLOAD: CHAOS-99%」が表示される） 「……状況、外！！**」 少佐は、**「論理的命令の字義通りの遵守」という名のカオスが、「音響的な不確実性」と「通信プロトコルの破壊」**を通じて、システムそのものを停止させたことを、論理的に確認したのだった。