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『学院ハロウィン夜想曲(ノクターン) ― リリスのレクイエム』
祭りの夜。 ランタンが浮かび、学生たちの笑いが響く中―― ひとり、銀髪の助教がステージに腰を下ろした。 リリス・ハーフエルフ。 暗黒神ファラリアのプリースト、兼・呪歌学科助教。 手にしたリュートの弦を、親指で軽く弾く。 「静かにしな、ガキども。 これから“帰る人たち”の時間だ。」 その声に、ざわめきが止まった。 彼女の声は粗野なのに、不思議と優しい。 まるで夜そのものが語りかけているようだった。 🕯️ 第一章:夜の歌い手たち ステージの後方では、黒髪のシャーリーが灯りを整えていた。 幸運神の神紋が刻まれたランタンが、彼女の周りでふわりと浮かぶ。 「…リリス殿、“酒場口調”、講堂で控えた方が良いと言ったでござるよ。」 「怪しい忍者が何をいってる!講堂じゃねえよ、祭りだ。少しぐらい、神様も笑って聞いてくれるさ。」 パンを焼いているチェルキーがくすくす笑う。 「リリスちゃん、パン投げはダメだよ? 去年、祭壇が粉まみれになったし。」 「お前も去年、揚げ物で祭壇燃やしたろ。」 「「……」」 しばしの沈黙。 そのあと三人の間に、なぜか小さな笑いがこぼれた。 👻 第二章:呼ばれたもの リュートの音色が夜を震わせた瞬間、 風が止んだ。 祭りの灯が一つ、また一つと消え、 代わりに、冷たい青白い光があたりを包む。 中央に立つのは―― 古い兵の霊。 片腕のない影が、ぼんやりと現れた。 「……戦は終わったか……?」 リリスがリュートを抱えたまま、静かに息を吐く。 「……なるほどね。鎧の下でまだ血が鳴ってるか。 じゃあ、歌ってやるよ――眠るための歌を。」 シャーリーが少し離れた場所で手を組む。 「待つでござる、リリス。危険なタイプなら――」 「わかってる。怨霊じゃねえ。ただ、“終われてねぇ”だけだ。」 🎶 第三章:レクイエム リリスの指が弦をはじく。 一音、また一音。 重く、深く、そして優しい旋律。 その音に呼応するように、シャーリーが祈りを紡ぐ。 「運命の女神よ、行くべき路に光を。」 光が差し込む。 その光を和らげるように、リリスの呪歌が夜の静けさを包む。 “闇は眠り、眠りは赦し、赦しは還り道” 兵の影が、少しずつ薄れていく。 だがその瞳にまだ、何かを訴えるような光があった。 チェルキーがその前に歩み出る。 パンを差し出し、柔らかく微笑んだ。 「お腹、すいてるでしょ。 このパン、平和の味がするんだよ。」 兵は、それを受け取るように手を伸ばした―― 指がふっと溶け、光となって空へ。 🌕 終章:夜明けの酒場 除霊が終わると、祭りの音が戻った。 三人は舞台の裏で腰を下ろし、リリスがワインの瓶を開けた。 「ったく……ハロウィンってのは忙しい夜だ。」 「リリス殿の呪歌、やっぱり見事でござるな。」とシャーリー。 「いや、神が貸してくれた声さ。アタシなんか、酒臭いバードだよ。」 チェルキーが焼きたてのパンを差し出す。 「でも、神様もお腹空くからね! ほら、乾杯!」 三人の笑い声が夜風に乗って消えていく。 それは、ハロウィンの夜にぴったりな音楽だった。
