1 / 5
蝶々とカオスとコスモスと
SNSの広報アカウントに投稿された、一枚の写真。 制服姿の少佐のバストアップ写真。紫がかったストレートロングの黒髪が映え、小さなコスモスを静かに見つめ微笑んでいる。 その少佐の肩のあたりを、一匹のキタテハがひらひらと舞い飛んでいる。 若菜少尉(広報担当): 「リゼット少佐の**『美の論理』と『秩序』は、一輪のコスモスに見る静謐と優しさの裏付けがあります。 そして舞い飛ぶ一匹の蝶は、生命の躍動と、** 少佐 の内面 に 芽生える 新たな 『 萌え の 論理 』 を 象徴 しています 。 普段 の 厳格 さ の 裏 に 隠された この 表情 こそ 、 最も 美しい 論理 です 。」 — 物語 は 、 この 静か な 微笑み の 数時間前 に 遡る 。 自衛陸軍の華道演習会場。リゼット少佐の頭痛の原因、轟少尉の作品が展示されている。 金髪ポニーテールにコスモスの戦士なお面を横に着けた轟少尉は、ピンクの和服を自信満々に着こなし、自作の**「生物植物兵器」を前に満面の笑みを浮かべていた。 その作品のススキの間**には、まだ 眠って いる ように 見える 一匹 の キタテハ (冬眠中。生きている!!)が 乗せられていた 。 ブロント少尉: 「 生命 の 循環 と 死 と 再誕 の 論理 、 そして 、 いざ という 時 の 栄養 補給 の 必要性 を 、 この 軍用 ヘルメット という 『 命 を 守る 器 』 に 表現 しました ! この 鯖 、 キノコ 、 そして カマキリ の 卵 こそ 、 心意気 の 魂 の 残骸 です ! 」 轟少尉が熱弁を振るう最中、生け花のススキの間に乗せられていた キタテハ が 微かに 羽ばたき 、 ゆっくり と 目覚め た 。 そして 、 ふわり と 舞い上がり 、 ブロント少尉 の 金髪 ポニーテール に するり と 止まっ た 。 まるで 元々 から リボン であった かの ようだ 。 轟少尉 は 全く 動じる こと なく 、 その 蝶 を見上げ て さらに 笑み を 深め た 。 その 「 魂 」 が 、 非 論理 的 な 力 で 自然 界 に まで 影響 を 及ぼし てい た 。 次にリゼット少佐の作品が展示された。藤色の和服を完璧に着こなした少佐の手には、花言葉、構成、空間の全てが教科書通りの**「** 完璧 な 生け花 」 が あった 。 リゼット少佐: 「 これは 華道 の 伝統 と 美的 論理 に 基 づいた 、 完璧 な 調和 の 具現 化 です 。 無駄 な 要素 は 一切 ありません 。」 しかし、その 作品 は あまりにも 完璧 すぎ た 。 審査員 たち の 一人 は 、 静か に つぶやい た 。 審査員: 「 美しい 。 ええ 、 美し い …… だが 、 魂 が 欠如 し てい る 」 少佐 の 完璧 な 表情 が 、 微 か に 揺らい だ 。 そして、最高師範の最終審査。轟少尉とリゼット少佐の作品が並べられた。 最高師範 は ブロント少尉 の 作品 を じっと 見つめ 、 やがて 大きく 頷い た 。 最高師範: 「 素晴らしい ! 人 、 花 、 虫 …… そして 、 魚 と キノコ も また 生命 なり ! これら が 全て ひとつ になり 、 魂 が 溢れ てい る ! 」 リゼット少佐 は 目 を 見開き 、 論理 が 崩壊 する 感覚 に 襲わ れた 。 リゼット少佐: ( 心 の 中 で ) 「くっ …… 魂 の 論理 など 、 私の 美的 論理 の 辞書 には 存在 しない ! この の 論理 は 間違っ ている ! 」 リゼット少佐 は ブロント少尉 を 睨みつけ 、 絞り出す ように 言っ た 。 リゼット少佐: 「 轟少尉 ! 貴様 の 作品 は 、 華道 の あらゆる 論理 に 反し てい る ! その 魚 と 虫 の 卵 は 何 だ ! 貴様 は 、 論外 だ ! 」 最高師範 は ただ 静か に 微笑む だけ だった 。 華道演習は轟少尉の魂の勝利で幕を閉じた。論理の敗北に頭痛を抱える リゼット少佐。 しかし、若菜少尉はオフィスで轟少尉の**「生物植物兵器」の残骸が隅に置かれている隣で、** 少佐にコスモスを手渡した**。 その時**、轟少尉のポニーテールからふわりと舞い上がった 一匹 の 蝶 が 、 少佐 の 持つ コスモス に 惹か れる ように 、 その 花 びら に そっと 止まり 、 蜜 を 吸い始め た 。 少佐 は 一瞬 、 驚いた 表情 を見せた が 、 すぐに その 蝶 を 優しく 見つめ た 。 まるで 、 自身の 作品 にも 生命 が 宿っ た か の ように 。 その時、執務室にブロント少尉がひょっこりと顔を出した。 「 少佐 、 お疲れ様です ! 私 の 作品 が 評価 された のは 嬉しい です が 、 少佐 の 完璧 な 美 が 理解 されなかった のは 残念 です …… 」 轟少尉はそう 言いながら 、 コスモス を受け取っ た リゼット少佐 と 、 その 周り を 舞う キタテハ を じっと 見つめ た 。 轟少尉: 「 でも 、 少佐 、 良い笑顔 ですね ! 蝶々 も 嬉しそう です ! 轟 の 魂 の 力 が 、 少佐 の 表情 を 緩め 、 蝶々 をも 喜ばせ るとは …… ( 感動 した ように 目を輝かせる ) 」 リゼット少佐 は 一瞬 、 その 素直 すぎる 言葉 と 純粋 な 笑顔 に 呆れ た が 、 すぐに いつもの 表情 に戻っ た 。 翌日。ブロント少尉の作品が最高師範に絶賛されたという記事は霞み、 「 厳格 すぎる リゼット 少佐 が 見せ た 一瞬 の 優しさ 」 という 記事 と 「 コスモス の 微笑み 」 の 画像 が ネット を 席巻 した 。 リゼット少佐 は 、 自身の 美 的 論理 がブロント少尉のカオスに 敗北 した という 事実 に 、 改めて 頭痛 を 感じ た 。 だが 、 ネット に 溢れる 「 美しい 」 「 優しい 」「ギャップ萌え といった 肯定 的 な コメント と 、 自身 の 肩 を 舞い飛ぶ キタテハ の 姿 を 目 に した 時 、 少佐 の 表情 に 微 か な 変化 が 生じ た 。 論理 の 上 では 敗北 だが 、 『 リゼット 個人 』 が 受けた 肯定 の 熱量 は 、 これまで になく 高かっ たから だ 。 リゼット少佐:「若菜 少尉 …… 貴官 の 『 萌え の 論理 』 は 、 私 の 理論 を 超え て しまった …… ( 口元 に 微かな 笑み を 浮かべ る ) ……。 だが 、 この データ は 、 戦略 上 、 最も 優れ た 成果 と 認め る。報告書 を 提出 せよ 。 早急 に ……」 若菜少尉は、少佐の微かな笑みと、相変わらずコスモスの蜜を吸うキタテハを見ながら、小さくガッツポーズをした。 情報戦の勝利であると同時に、少佐の人間性の新たな論理を開拓した瞬間だった。
