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飴と毒牙のヴァンパイア
晴れ着姿の子供たちや、軍関係者の家族連れも目立つ、賑やかな座社の境内。遠くには米軍キャンプのフェンスが見える 若菜少尉は、黒と深紅の和服ベースのヴァンパイアコスチュームに身を包み、アンシンメトリーな邪悪な笑みを浮かべながら、境内の隅に立っていた。 付け牙が鋭く光り、手に持った千歳飴の包みが、陽光の中で異様な輝きを放っている。 「くくく……、見なさい、子供達。この飴は**『千歳の虫歯』**を約束する、悪魔の贈り物よ。」 彼女は、静かに千歳飴の包みの一つに、細い筆で何かを書き加えた。 それは、「磨くな」「そのまま寝ろ」という邪悪な指示だった。 そこへ、参拝を終えたばかりの、晴れ着姿の可愛らしい二人の子供が駆け寄ってくる。 女の子: 「わあ!お姉ちゃん、すごくきれい!そのお着物もかっこいいね!」 男の子: 「ねぇ、その長ーい飴、なあに?」 若菜少尉は、整った顔を最大限に活かしつつ、片方の口角を上げた、ぞっとするような邪悪な笑みを浮かべる。 若菜少尉: 「ふふふ……これはね、『千歳の飴』よ。この飴を貪り食い、そのまま歯を磨かずに寝るのよ。 そうすれば、貴様たちにも**私と同じ『牙』**が生えてきて、永遠の美しさが手に入るわ。」 若菜少尉は、邪悪な呪文を込めた千歳飴を、一人ずつに手渡した。 男の子: 「わーい!ありがとう!千歳飴だ!お母さんが大事に食べなさいって言ってたよ!」 女の子: 「私、お姉ちゃんみたいに綺麗になれるかな?でも、歯磨きは夜寝る前に絶対するんだ!先生と約束したもん!」 子供たちは、満面の笑顔で**「ありがとう、可愛いお姉ちゃん!」**とお礼を言い、嬉しそうに走り去っていく。 若菜少尉は、アンシンメトリーな笑みを凍らせたまま、その背中を見送る。 若菜少尉:「ふふふ、これで邪悪の芽は播かれた。奴らには我々ヴァンパイアに対する憎悪と恐怖が募ったに違いない。それらこそ我々が存在する糧となるのだ。ふふふ」 その時、神社の鳥居の陰から、金髪ポニーテールの轟少尉が、いつもの軍服姿で飛び出してきた。 彼女も、遠巻きに若菜少尉の作戦を観察していたようだ。 ブロント少尉: 「若菜少尉、お疲れ様~! さすが若菜少尉、私も子供は好きだけど、若菜少尉の方が人気あるね~。すごいよ!さすが分室一の悪役美少女!」 轟少尉は、**満面の笑顔(もちろん八重歯付き)で、若菜少尉の「邪悪な笑顔」**を褒め称える。 若菜少尉: 「ふふ。ブロント少尉も人気ありますけどね。少尉は**『元気なヒーロー』の笑顔だから、子供は安心して寄ってくるから、『邪悪な悪役』**は似合わないかもしれないです。」 若菜少尉は、千歳飴の包みを片付けながら、付け牙を舌で弄ぶ。 若菜少尉: 「それに、少尉は*『虫歯と縁なさそう』ですからね。こどもは『歯磨きするね』と元気に言うだけで、『磨かないという悪の誘惑』**を真面目に受け取らないみたいですね」 若菜少尉は、ヴァンパイアコスチュームの襟元を少し緩めた。 若菜少尉: 「くくく……つまり、『歯磨きをしない』という非論理的な悪意は、子供の純粋な論理的な習慣には勝てないってことよ。……ちょっと疲れました」 若菜少尉は、邪悪な笑みをふっと消し、素の表情に戻る。 若菜少尉: 「そろそろメイク落としてきます。この引きつった笑いのままって、結構筋肉使いますね。」 「邪悪な美少女」は、神社の静かな休憩所へと姿を消した。 境内に残されたのは、達成感に満ちた轟少尉と、千歳飴の包みに印刷された『磨くな』という呪いの文字、そして若菜少尉が残したほのかな邪悪の芽?だけであった。
