雨の土曜日 — 「心意気の護衛」

１. 🌧️ 最悪の週末と最悪の送迎 リゼット・ジェイミー・ハーゲン・七野少佐は、黒の防水コートを羽織り、ため息とともに駐屯地の通用門をくぐった。 週末は**「実家への政治的儀礼」という上位の任務**に充てられる。 基地内居住の原則を破る、この特例が心底煩わしかった。 そして、その煩わしさの最大の要因が、目の前にいた。 水しぶきを跳ね飛ばしながら急停止したおんぼろジープ。 ブロント少尉こと、轟杏樹少尉は、幌も屋根もないジープの運転席で、水も滴る金髪のポニーテールを揺らしながら、満面の笑顔で手を振っていた。 車内はすでに水たまりになっている。 「少佐殿！水陸両用機動兵器による心意気溢れる特別送迎であります！雨は我らの作戦領域！ さあ、自宅へ、安全かつ迅速に参りましょう！」 「轟少尉。私は軍の公用車を予約していたはずだが？」 「イエッサー！公用車は全て、本日の任務の特殊性により、『緊急時における機動兵器の性能比較試験』のため、私めが論理的にキャンセルいたしました！さあ、早く！護衛任務を遂行いたします！」 少佐は、防水ケースに収めたタブレットを握りしめ、他に選択肢がないことを論理的に分析した。 そして、「防水コートと装備の堅牢性の限界試験だ」と自らに言い聞かせ、ジープの助手席に静かに乗り込んだ。 ２. 🚨 監視員のカオスな日常 郊外の監視区域にある少佐の自宅（豪邸実家）へ吹きさらしのジープで向かう道すがら。 森の中に潜伏している**私服の監視員（情報部員）**の耳に、甲高いエンジンの爆音と泥水の飛沫音が響いた。 「……少佐の車両、接近。目標はオープンカー…いや、ジープだ。幌なし。速度超過。何だ、この水しぶきは！？」 「冷静になれ、。あれは轟少尉の私有兵器だ。護衛任務だと扱え。少佐は無事だ。……ただし、全身ずぶ濡れの模様。」 ジープが監視員の潜むぼろ小屋の影を通過したと思った瞬間、轟少尉は急ブレーキをかけた。 「護衛部隊の皆様！お疲れ様であります！」 轟少尉は、防水バッグから湯気を立てるラーメンと熱いコーヒーのポットを取り出し、満面の笑顔で倉庫の影に向かって呼びかけた。 「雨の中の警戒任務、心意気で完遂していただき、感謝いたします！これは非効率ではありますが、心を温める食事であります！どうぞ！」 監視員たちは顔を見合わせた。彼らは**「護衛官」**などではない。しかし、正体を明かせば任務は失敗する。 「……（無線で）こちら足立。護衛から熱いラーメンとコーヒーの差し入れを確認。……極めて非論理的な展開だが、轟少尉の心意気を拒否すれば、我々の存在に疑念を持たれる可能性がある。」 「受け入れろ、足立。濡れた体には熱いラーメンは論理的に効果的だ。そして轟少尉の笑顔を前にして、正体を維持できる諜報員はいない。」 「どうぞ！心意気で召し上がれ！私は少佐殿を自宅まで安全に心意気を持って護衛いたします！」 ジープは再び轟音と水しぶきを上げ、監視員たちの論理的な監視網を破壊しながら突き進んでいった。 ３. 🏠 論理の強制休止 水しぶきの向こうに、自宅の豪邸が見えてくるころ。 「……轟少尉。今の行為は軍の機密保全規律に対する重大な違反だ。監視……、任務中にに不必要な接触を行った。」 コーヒーを片手に、僅かに言いよどみながら指摘するリゼット少佐に。 「ノン、少佐殿！彼らは雨の中、心意気で護衛任務を完遂しているのです！！任務とはいえ、心意気を讃えることは我々の義務であります！」 ブロント少尉は、彼らの正体を知ってか知らずか一点の曇りなく答える。 少佐は、濡れて体に張り付いた黒の軍用コートから顔を上げ、濡れた金髪の少女士官を睨みつけた。 「……帰投後、今回の**『水陸両用機動兵器による特別送迎』に関する、気象データと車両性能の相関分析レポートを最低10枚**提出せよ。ラーメンによる任務士気への影響も加えること。」 「イエッサー！心意気のレポート、提出いたします！」 「……、それから、小官の自宅に到着後即座に入浴、更衣の後、駐屯地帰還までの間、護衛任務を継続する事を命じる」 轟少尉のジープは、雨中の監視区域に熱い湯気とラーメンの匂いを残し、リゼット少佐の論理を週末の間、強制的に休止させることに、見事に成功したのであった。