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黄金色のお狐巫女様
ダキニラが、また狐巫女様の神社で何かやっています。 一応、今回は真面目にお仕事するようです。 https://www.aipictors.com/posts/587862 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「ゴールデンウィーク……? 何だろそれ、美味しいのかな~?」 狐耳をピクリと動かしながら、ダキニラは神社の境内に立つ小さな屋台ののれんを整えた。 白と赤の巫女装束に、尻尾がふわりと揺れる。 側には、"謎の転移者"から伝わったという「GOLDENWEEK CANDY」の看板が掛かっている。 未知の文字で書かれてはいるが、どことなくこの地でもに読めるように作ってあるのが、彼女らしい策略だった。 彼女が選んだ商品は金平糖、小さな星型の飴で、基本金色だが他にもいろんな色がある。 東洋風の神社を中心とするこの地域の住民たち(みんな結構裕福)は、この時期みなこぞって休みをとる。 彼等の出身である東方の伝統らしいが、詳しい由来は不明。 「どっちみち、お客が沢山来るんなら、お金は沢山落としてくれるよね。 黄金週間!!様様だね」 清楚な巫女服姿にそぐわない、金満なことを呟きながら屋台の準備をするダキニラだった。 本来この神社の宮司には、神聖にして清楚な圧倒的求心力を持つ狐巫女様が別にいるのだが・・・・・・、今日は御姿が見えない。 「狐さんの飴だって~」 「かわいい~。キラキラでお星さま見たい!!」 「お姉さんが本物の狐巫女様なの?」 「さあね~。でも狐さんは狐さんよ? 金平糖、今だけ特別価格だよ~」 ダキニラは、ニッコリと営業スマイルを浮かべ、清楚な巫女姿に違わぬ口調で客の相手をしながらも、目は境内の群衆を常に観察していた。この場所は、信仰の場であると同時に、神社ヤクザ……もとい、地元の組が縄張りとして見張っている場所。 事件を起こす輩は少ないが、「ゼロ」とは言えない。 「宮司の巫女様は忙しいじゃろうからのう~。その辺の狐雇ったんじゃ~ないのかね~」 そんな年配客のからかいにも、「そんなわけないでしょ~♪」と軽やかに受け流しながら、ふいに気配が変わる。 「あれ……おばあちゃん、あれほしい……」 小さな男の子が、祖母の手を引きながら屋台を見上げた、その後ろに、ぬるりと影が忍び寄る。 ダキニラの目が鋭く光った。 「神聖な境内で盗みはご法度だよ」 次の瞬間にはもう、巫女服の裾をひるがえしながら影へと飛び込み、スリの腕をがっちりと掴んでいた。 「くっ、畜生がッ!!」 もう一人のスリが、男の子を人質の掴もうと手を伸ばしながらナイフを抜く。 だがその刹那、ダキニラの指が細かく震える。 「――フォース(理力波)!」 不可視の衝撃波は、ナイフを弾き飛ばし、鋼の音が境内に響いた。 「何ごとでぃ!?」 現れたのは、法被を羽織った神社ヤクザ。 視線がダキニラとスリを行き来する。 「市民警備隊です! 境内でスリを捕らえました!」 ダキニラはきっちりと言い切った。 冒険者ギルド登録のスカウト、そして神官として、正式に治安維持活動を認められている立場――それが「市民警備隊」だ。 「……そいつは、ごくろうなこって。神社の境内を汚すとは、ふてぇ奴らだ」 神社側の人間も空気を察し、スリたちを引き立てていく。 その直後だった。先ほどの男の子が、転んで膝を擦りむいていたことに気づく。 「おっと、大丈夫?」 ダキニラは巫女装束のまましゃがみこみ、優しく手をかざした。細く柔らかな光が、傷口を包み込む。 「痛いの、痛いの、飛んでけ~……《キュア・ウーンズ》」 少年の瞳が大きく見開かれ、擦りむいた傷が消えていく。 その瞬間―― 境内にいた者たちは、言葉もなく見守っていた。 不思議だった。さっきまで軽口を叩いていた狐巫女が、今はまるで、本物の神の遣いのように見えた。 狐耳も、しっぽも、神々しさを際立たせる装飾にすら思える。 彼女の顔から、営業スマイルも商魂の炎も消え、ただ慈愛と光に満ちていた。 (……まさか、本物の巫女様……?) (やっぱり二人いたんだ……忍び巫女と、癒しの巫女) (かっこいい……聖なる盗賊? デバイン・ローグ……?) 知らず知らずのうちに、手を合わせる者すらいた。 一方で、ダキニラは、子供に笑顔を向けながら、誰の視線も気にせず言う。 「あ~あ、正体ばれちゃった。……これはもう、早めに引き上げた方がいいかもね」 ただ、彼女がばれたと思っているのは、"スカウトとしての能力"のほうだった。 神聖な力も、慈愛に満ちた眼差しも、彼女にとっては「ついで」のようなもの―― ――けれど、人々の記憶には、「本物の狐巫女様」の姿だけが、静かに刻まれていた。
