ブロント少尉、制帽とセーラーと外交任務
海は穏やかに凪ぎ、港には世界最大級の空母「CVN-82 ドナルド・ジョン・トランプ」が静かに係留されていた。 その艦首へと向かう防衛省の連絡艇の上。ひときわ異彩を放つ金髪ポニーテールの少女が、やや不安定に立っていた。 「……この服で良かったのかな……」 アンジェラ・ミカエラ・ブロント少尉は、帝国陸軍士官学校所属の若手士官。今回、日米親善共同訓練の連絡将校として、米海軍の誇る原子力空母に派遣されていた。 しかしその装いは―― 真っ黒な海軍型セーラー服。 しかも袖には帝国陸軍の階級章(少尉)、胸には特技章・勲章のリボンバー、肩には野良塾所属章までもが縫い込まれていた。 「……まさか“まともな格好”が、それだとは思わなかったんですが……」 (※注:事前に上官から「プリーツミニはダメ。まともな格好で行け」とだけ言われた結果、ブロント少尉の“常識”で選ばれたのが、女性兵士用の式典用黒セーラー服である) 「ど、どう見ても“帝国海軍の制服に似た何か”じゃないですか!? しかも袖に陸軍の階級章!? 混成軍ですか!?」 後方で慌てる富士見二等軍曹。今回も少尉の随伴・監視役として同行していた。 「ち、違うぞ軍曹。これは“形式美”なのだ。統合軍装の萌芽――象徴的な試みなのだ!」 「誰もそんなこと言ってませんッ!」 だが彼女の言葉が空母の甲板に届く前に、連絡艇は接舷された。 甲板上には、整列した米海軍士官たちと、一人の艦長クラスの高官がいた。 「Welcome aboard, Lieutenant Bront.」 「アンジェラ・ミカエラ・ブロント、連絡任務に参上しました!!」 凛とした声、翻るスカーフ、整った軍靴―― 確かに一見して完璧な礼装姿であった。 ただし、それが**「海軍のセーラー服+陸軍章全部盛り」**という混成珍装であることを除けば。 艶やかな金髪ポニーテールをなびかせながら、黒に近い濃紺の海軍型セーラー服。 スカーフは帝国色の朱、スカートはひざ丈でプリーツ、しかし胸元から肩、帽章、そして両袖にはびっしりと――陸軍の特技章と所属章、 略勲章が縫い付けられている。 さらに、頭には陸軍の制帽。階級章は金色に輝き、本人はご満悦だった。 艦長とMPたちは数秒沈黙し、そして一人が呟いた。 「……You're from the army, right?」 「Yes. But as you can see, I am in naval camouflage」 「That's not camouflage, that's a school uniform!!」 「…Is this cosplay… or a new branch uniform?」 「It's Japan. Don't question it.」 一同、うなずいた。 「そ、それで少尉、今日はどういった任務で?」 「視察である。まずは艦橋から。次に航空甲板。そして、艦内アイスクリームマシンの稼働状況を確認したい」 「最後のいらないでしょッ!?」 「軍曹、アイスは士気の源である。甘味と空母、それは人類の英知だ」 「セーラー服姿でアイスの話をするのやめてください……!」 結局その日、ブロント少尉は艦内を視察し、米海軍士官に**「Sailor? Soldier? Idol?」**と首を傾げられつつも、現地のMP隊員には大受けだった。 特に、セーラー服に戦闘章を付けたスタイルは**「Battle School Idol」**という謎の称号で艦内ミーム化されたという。 夕刻、艦から降りる際、ブロント少尉はひとこと呟いた。 「うむ……やはりセーラー服は、海風と空母に映えるな。今日の私は“まとも”だった」 「――いいえ、全然まともじゃなかったですからね!? 本部報告書、どう書けばいいんですかこれ!」 こうして、「セーラー服で空母に上がった陸軍少尉」の逸話は、米軍記録にも軽く残ることになったという。
