1 / 6
「アイピク島の線路を追え!」 ~帝国自衛陸軍水上機動団(仮)特別調査任務~
「少尉、その恰好、どこで拾ったの……?」 チェルキーが眉をひそめた。 スチームパンク風に改造された士官服に身を包んだブロント少尉は、真剣な表情で地図筒をぶらさげて立っていた。 スカートには謎の鋲、肩には真鍮パイプのような飾り。いつもの凛々しさはそのままに、どこかズレている。 「うむ。文献によると、この島には過去の蒸気文明の痕跡があるらしい。ならば郷に入らば郷に従え、というわけだ」 「いや、従う方向がおかしい……」 芝居がかった口調のチャーリーが、胡散臭い修道服姿で、ひょろ長い体を折りながらぼそっとつぶやく。 「くまー? 面白いからいいくま!」 熊耳の少女、プーにゃんがふよふよと微笑む。 彼らの前に延びているのは、朽ちた線路。錆びついた枕木。曲がった鉄条。 それはまるで、忘れ去られた何かへ導く道のようだった。 草をかき分け、湿気を含んだ空気の中、線路は森を抜け、丘を越え、海へと向かっていた。 「これは……なんだか妙に実用的な作りだね。軌間も狭いし……」 チェルキーが地面にしゃがみこみ、レールを指でなぞる。 レールの端には、何かを何度も通したような細い溝。 枕木はまばらだが、重機ではなく、もっと原始的な手で打ち込まれた跡がある。 「軽便規格……?」 そのつぶやきは、誰にも聞こえなかった。 「見ろ、何かある!」 ブロント少尉が嬉しそうに声を上げた。 草むらの先、海岸線に近い窪地の奥――そこにあったのは、大きな鉄製の……車輪のついた箱!!だった。 鋲と歯車の装飾を施したスチームパンク服の少尉が、目を輝かせて遺産に駆け寄る。 チェルキーはすぐに手を伸ばして制止する。 「待って!下手に触らないで。腐食してるとこある。」 「ぬう、遺産を前に手も足も出ないと!!」 ものすごく悲しそうに言う少尉をみて・・・・・・」 「しょうがないね。 ・・・・・・ こっちに工具持ってきて」 「拙僧、心得ております。なにせ鉄と油と歯車の祈祷師ですからな」 怪しく眼鏡を光らす怪人神父に。 「……チャーリーは黙って荷物だけ持ってて。邪魔になるから」 「無念」 「プーにゃんも持つくま!!」 「力仕事できたら呼ぶから!! 草でも刈ってて!! 少尉も!!」 チェルキーが道具を広げ、補助動力用のシーソー式てこを確認し、車輪の回転軸を分解・清掃し、レールとの段差を調整する。 賢者の学院卒業(初等部だけど)のチェルキーである。機械は本職ではないがなんのその。 「大したもんだ……」 「くまー!! チェチェ、がっこ~行ってただけあるくま!!かっこいいくま!」 3時間後、過去からの箱車は息を吹き返していた。 「一応断っておくけど。線路の先どうなってるか知らないよ?」 何となく、整備完了させてしまったチェルキーが言う。 「為せば成る!!なさねばならぬ何事も!!」 ドヤ顔でいう少尉に・・・・・. (この人本当に士官学校出てるのかな) 心の中で突っ込むチェルキーだった。(出てません。戦時昇進です。) 「それでは、発進!」 3人が乗り込んだ過去からの木箱が、傾斜を滑るように動き出す。 「気を付けてね~」 全く心配しているそぶりが無いチェルキーの見送りを背に。 レールは南に向かって緩やかに下り坂。風が頬をなでる。 「これは快適だな!」 「うむ、実に良い。実用性と機能美の調和、まさにスチームパンク精神……!」 「くまー!(風きもちいくまー!)」 しかし、その先にあったのは―― 空。 レールは、突然途切れていた。 海へ向かって開けた崖の途中。 かつて続いていたであろう線路の名残が、半ば海中へ沈んでいるのが見えた。 「まさか……」 言葉が終わる前に、”トロッコ”は宙を舞った。 !! 空から海へ。 トロッコごと落下した少尉たちは、見事に波間へ吸い込まれていった。 ・・・・・・ そして数分後、びしょ濡れで砂浜に流れ着く3人。 「うう……これは想定外、なんで止まらないのよ……」 「拙僧の祈祷が空転したのだ……」 「くまー!でも楽しかったくまー!」 崖の上で、チェルキーが腰に手を当てて彼らを見下ろしている。 「言わんこっちゃない・・・・・・」 その足元、朽ちた標識の木片には、かすれた文字が刻まれていた。 「運搬車停止位置」 「〇〇製糖所」 誰も何も言わなかったが、たぶん全員、うっすらと気づいていた。 これは、文明の遺跡ではなく、ただのトロッコだろうと――。
