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ガルガージョンMk-Ω、発進!
遺跡の奥は、思いのほか開けていた。 天井から垂れ下がるツタ、半壊した石壁。そしてその中央に、異質な物体――ホコリを被ったゲーム筐体がぽつんと置かれていた。 「また変な遺跡だね」チェルキーが緑のポニーテールを揺らしながら、筐体を覗き込む。 「これ……魔道車でもないし、操縦席だけあっても意味ないでしょ?」 「いや、これは……!」 ブロント少尉の目が輝いた。 「モビルスーツのコックピット! しかも……このゴーグルは!」 「え、それただの変な眼鏡じゃ……」とチャーリーがひょろりとした体で口を挟むが、少尉はすでに座席に飛び乗っていた。 「ガルガージョンMk-Ω、起動!」 ヘッドセットを装着した瞬間、彼女の視界は切り替わった。 そこはアイピク島全域を見下ろす、10倍の高さからのパース。火山の中腹に鎮座していた巨大ロボットが、轟音と共に立ち上がる。 「うおおおっ! 脚部駆動良好! 旋回開始!」 視界の中、ガルガージョンMk-Ωは黒猫亭の屋根を軽々と飛び越え、浜辺を疾走し、ジャングルを踏み荒らす。 「やべえなこれ、完全にハマってやがる……」チャーリーが呟く。 「うおおっ! 火山頂上、ジャンプ! うわ、カッコいい!」 その時、背後から涼しい声が飛んだ。 「……少尉、起きなさい」 振り向く間もなく、富士見軍曹の手がヘッドセットを引っぺがす。 「はっ……あれ? ガルガージョンは? 本体は!?」 目の前には、ただの廃棄ゲーセン筐体が静かに鎮座していた。 画面にはアイピク島の3Dマップが映っていたが、その中央で暴れ回っていたガルガージョンMk-Ωの姿は、ノイズにまみれてフェードアウトしていった。 少尉は名残惜しそうにレバーから手を離した――が。 「……少尉」 軍曹は静かに腕を組み、薄く笑った。 「訓練中に私用のの遺跡探索で、しかも島の地形をゲームで踏み荒らすなんて……」 「えっ、いやこれはシミュレーションで……」 言い訳の途中で、軍曹のチョップが少尉の頭頂にクリーンヒット。 「痛っ!? ちょ、軍曹、やめ――」 次の瞬間、耳を引っ張られ、少尉は遺跡の外までずるずると引きずられていった。 背後でチェルキーとチャーリーが小声で話す。 「……あれ、お仕置きって優しいほうだよね?」 「優しい? おれなら二週間は動けなくなるぞ」 「まあ、遊びにあそこまで没頭したら軍曹じゃなくても怒るだろうね」 チェルキーはため息をつく。 チェ―リーは頷きかけながら、ぽつりと言った。 「でも……アイピク島の地図、確かに入っていたよな?」 その瞬間、二人の背筋に、ほんの少しだけ寒気が走った。
