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少尉と魔導書と深き者ども
「魔王さま!!ブロント少尉がまた妙なモノ拾ってきたようですよ」 チェルキーが額に青筋を浮かべながら報告する。 魔王は目を細め、ブロント少尉が抱えている分厚い古書を見やった。 「ふむ……怪しい気配じゃな。まさか、それは禁断の……」 本の表紙には、かすれた文字でこう刻まれていた。 “✖e✖ronomicon” 読みかければネクロノミコン、だがどうにも微妙に違う。 「きっと悪い知識が書いてあるに決まってます!!」 チェルキーは腰に手を当てて断言する。 「それはいけないです!!憲兵(ちがう)としては検閲しなければ!!」 それを聞いて、ますます張り切るブロント少尉。 「では開いてみますよ」 「あっ、ちょっと!!」 チェルキーがー止める間もなく、ブロント少尉はがばりとページを開いた。 すると。 ――光。 ページが宙を舞い、少尉の身体を白いフリルと赤いリボンが包み込む。 金髪ポニーテールに、ひらひらとした白のミニワンピース、腕には赤いリボンのアクセント。 「…………」 (パチモンじゃないかの?) (魔導書じゃないね) 『われこそは偉大なる魔導書!!エロノミコン!!』 沈黙が流れる。 「いやいやいやいや!! なんなのよ!! その格好!!」 チェルキーが真っ赤になって叫んだ。 魔王も額に手を当てる。 「……アル・アジフ風……か。しかし、なぜお主が」 当の少尉は眉一つ動かさない。 「ふむ、衣装がどうであれ、やることは変わりません!!」 そう言い放つや否や、地面がぐらりと揺れる。 浜辺から、ぞろぞろと 深き者ども が這い出してきた。 「なっ、深き者ども!? なぜこんなタイミングで!」 チェルキーが絶叫する。 しかし少尉は衣装も小物も完全に無視して、足を振り上げた。 「必殺――蹴りクレセントカッターッ!!」 空を裂く内回し蹴り。 白いリボンとフリルがぶわりと舞い、同時に深き者どもがまとめて吹っ飛ぶ。 「ぎゃぉええええええっ!」 海に叩き落とされ、魚の群れのように泡を立てて消えていく異形たち。 ――沈黙。 「………………」 魔王とチェルキーは口を開けたまま絶句。 さらに、ブロント少尉の手にある エロノミコン までもが、 表紙の目玉模様をぐるぐる回して、露骨に 呆れ顔 を浮かべていた。 『お前……変身衣装はともかく、魔導書の魔力は一切使わんのかよ……』 書物がページをパラパラめくり、ため息をついたような音を立てる。 「魔法など不要です!!」 少尉は勝ち誇った笑みを浮かべ、軍靴で砂浜を踏みしめる。 「敵は、蹴れば倒せます!!」 「…………」 「…………」 魔王とチェルキー、そして本までもが、同時に深い溜息をついたのだった。
