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シスターの帰還
境内を覆う闇の群れに、ダキニラは苛立ったように舌打ちした。狐の耳をピクリと揺らし、短剣を振るいながらすばしこく敵を翻弄する。 「まったく、この忙しいのに。リリスちゃんも、チャーリーも、チェルキーさんも……どこで遊んでるのよ!」 その背後を守るのは、長身の戦巫女グレドーラだった。 二本の短い角が灯火に照らされ、鬼を思わせる凛々しい輪郭が浮かぶ。 大剣を構えた彼女は、迫り来る敵を容赦なく薙ぎ払う。 「戦える者は戦う。それだけだ」 静かな言葉に、ダキニラは肩をすくめて笑う。 「運がない者は死ぬだけだけどね」 「運だけではない。運は自分で切り開き、戦って勝ち取るものだろう」 鋭い眼光の奥にある優しさを知っているからこそ、ダキニラは一瞬、心地よさを覚える。 「……チャーリーみたいなこと言うじゃない」 だが、敵は減らない。むしろ、数は膨れ上がりつつあった。 狐尾を翻して周囲を見渡し、ダキニラは唇を噛む。 「とはいえ……少々数が多いかも」 その瞬間だった。 ――ピカッ。 眩い光が境内を満たした。灯籠よりも鮮烈な、清浄な輝き。影の群れが思わずたじろぎ、二人の視線が光の源へと引き寄せられる。 「あっ……あなたは……!」 「光の姉妹……!? 旅に出たのではなかったのか」 光の中から、落ち着いた足取りでひとりの女性が現れた。 深い青のベレー帽に、赤い眼鏡。 その姿は変わらぬ穏やかさをたたえているが、纏う気配は確かに神威そのものだった。 シスター善哉。 彼女は二人を見つめ、柔らかな笑みを浮かべる。 「――汝の為すべきことを、為すべき場所で為すが良い。我が神のお言葉です」 その声は静かであったが、響きは圧倒的だった。闇を切り裂く清浄な力が広がり、敵は後ずさる。 ダキニラとグレドーラは、互いに一瞬視線を交わし、そして無言で頷いた。 背中合わせに立つ二人のもとへ、第三の「姉妹」が帰還したのである。
