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闇のランプ
闇は重たく、湿った石の匂いと共に押し寄せていた。 普通の冒険者なら一歩も進めずに立ちすくむほどの暗黒――だが、チェルキーの瞳は違う。 金緑色の双眸がかすかに揺らぎ、世界は色を失った代わりに輪郭と温度の層を帯びて広がる。 彼女は消えたランタンの残り香を鼻で確かめるように息をつき、腰に下げた戦斧をゆるやかに構えた。 モンスターの気配は近い。獣の体温が黒い靄の向こうで点滅し、わずかな動きさえもくっきりと浮かぶ。 「……ふん、光なんて必要ないわ。 闇の中でこそ、ドワーフは狩人になるのだから」 言葉は小さく、まるで自分にだけ告げる呪文。 だがその瞬間、彼女の立ち姿はまるで舞台に照らされたかのように凛々しく見えた。 刃が闇を裂く。 火花のように閃いた軌跡は、彼女にしか見えていない世界の鮮やかな証。 モンスターの叫びが響き、すぐに沈黙に変わる。 ……残ったのは、暗黒の静寂と、戦斧を握る少女の落ち着いた息づかいだけだった。 闇は恐怖ではなく、彼女にとっては舞台。 観客がいればきっと理解するだろう―― この美食の神官戦士は、光を必要とせずに世界を味わう存在なのだと。
