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新・近代五種任務、単独行
「むっ、ボルタリング?」 少尉は目を細め、資料の端に書かれた小さな文字を追った。 室内で岩を登るあのスポーツ……いや、これは戦術行動訓練の一環!! 「むむ……近代五種、いや十種だったか!たしかクライミングも入っていたはずだ!」 リュックに装備を詰めながら、少尉は無駄に大きな声でつぶやく。 同僚(先輩だけど)の士官が驚いた顔で近づく。 「えっ、少尉、ボルタリングって……ただのジムのスポーツで」 「これは近代五種(?)任務の一環だ!岩登りは生存技術の基本!よって、即座に装備を整えて向かう!!」 食い気味に答えるブロント少尉。 同期が慌てて制止しようとしたが、少尉の決意は固かった。 黒詰襟の軍服にミニプリーツスカート、さらにヘルメット、リュック、ロープ、カラビナ、訓練用模擬銃……まるで山岳行軍装備の総合展示のようだ。 ジムに到着。天井まで届く壁を見上げ、少尉は深呼吸。 下では普通の親子連れが楽しげに笑い、子供が指をさして「ママー!」と叫ぶ。 母親は慌てて手で子供の目を隠す。 「むっ、観衆の視線も熱いな……真・近代五種任務、開始である!」 そして…… 重装備の足取りは思った以上に鈍く、手が滑った少尉はド派手にマットへ落下。 「うわっ!」 再び子供に指をさされ、母親は慌てて目を覆う。 少尉は顔を赤らめながらスカートを直し、頭を掻く。 「むむ……真・近代五種、開始早々戦術的撤退となった……」 異様な装備と真剣な表情、そして謎の自己正当化が、ジムの普通の親子との落差で、誰もが思わず笑ってしまう光景だった。
