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巨大香水とひそやかな乙女心
ブロント少尉は今日も撮影現場に颯爽と現れた。 広報のお仕事だ。 黒の軍服に短めのプリーツスカート、赤いスカーフが軽やかに揺れる。 高く結った金髪ポニーテールが、少尉の軽快な歩みに合わせて跳ねた。 「今日は乙女の嗜み、香水の撮影ですね!」 カメラマンやスタッフを前に、少尉は自信満々に宣言する。 背筋がピンと伸び、瞳は輝いていた。 するとスタッフが、巨大な香水瓶のポップを手渡してきた。 「…わあっ、でも、楽しみます!」 少尉は少し驚きながらも両手で抱え、笑顔を浮かべる。 その巨大さは、もはや演習用の槍に匹敵するほどだった。 シャッターが切られるたびに、少尉は瓶を振り回す。 髪とスカーフが舞い、背景にキラキラと光が散る。 派手なポーズで、スタッフたちは盛り上がり、観客も息をのむ。 「これで注目は完璧…!」 少尉の内心は、派手な演出に集中していた。 だが、その動きの合間に、胸ポケットの小さな香水瓶が光を反射したことに、誰も気づかなかった。 撮影がひと段落すると、少尉は静かにその小瓶を取り出す。 実は先だって渡された香水瓶。 指先で軽く蓋を開け、フッとひと吹き。香りがふわりと漂い、少尉の表情は柔らかく、微笑みに変わる。 「…やっぱり、これはいいわね」 しかし、この瞬間はすでにカメラのレンズに収められていた。 広告会社は、少尉の派手な演出よりも、このひそやかで自然な乙女の瞬間こそが、本当に魅力的だと見抜いていたのだ。 少尉がまだ気づかず香水を楽しむ一瞬――その透明感ある美しい表情は、派手な巨大香水の演出をも上回る、完璧な広告写真として、静かに確実に押さえられていた。
